エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

人工実体: Purgatory Resort░【ぽ隠往】 (2019) - 煉獄のリゾート、私のやすらぎリポート

ヴェイパーウェイヴの世界ではそれなりの信頼と実績を誇る、《Palm '84》レーベル。そのオムニバス“BOY ONE”(2019, )の中でひときわ印象的だった楽曲が、この人工実体による“死が待っている。”
イヤだな、タイトルが陰気くさくて……。ではあるけどイイと思う気持ちが強めなので、それを収録したもとのアルバム“Purgatory Resort░【ぽ隠往】”を、いまここにご紹介。

《人工実体》ってどこかで聞いたようなバンド名だが、しかし現状この「煉獄のリゾートうんぬん」以外には作品がないようだ。ただ同じ人が、別名義《ANDROSS 5225》で活動している(していた)ことは確かのよう。
しかしこのアンドロスさん本人のBandcampページが、過去にはあったらしいのに現在は消えている。他レーベルから出たアルバムは残っているが、ちょっと聞いてみたらチップチューンみたいなやつで、人工実体とはスタイルが異なる感じ。

まあ作者のことはともかく、人工実体はどんなものなのかというと、ようは恐ろしく眠たいスローさをきわめたドローン作品かのように聞こえる。だがしかし、まともにシンセサイザー等を鳴らしているのではないっぽい。
そうではなく、何らかの既成の曲をきょくたんにスローダウンしている──。たぶん4分の1くらい、あるいはそれ以上に、ピッチとテンポを落としている。

その手法は、ウワサのトラック“死が待っている。”についていちばん想像しやすい。これは、1980年代あたりの軽薄なエレクトロ系アレンジのJ-Popみたいな楽曲、そのイントロか間奏をツギハギ編集して超スローダウンして、そしてリバーブ等で仕上げたものと考えられる。

もとはといえば浮かれくさったバブルっぽいサウンドだが、しかしこうして加工してみると、その裏側に貼りついた“死が待っている。”という万人への無慈悲な現実があらわとなる。……とでも訴えているのだろうか? 動きの乏しさをきわめたドローン世界は、ここでは死の暗示なのだろうか。
だがしかし、タイトルなどを除外して考えると。ここまで強烈な加工を施しても、元ネタ楽曲の明るさが意外と完全には喪われてはおらず、ただ本来はアッパーだったらしきフィーリングが、ワリとカーム(calm, やすらぎ)なものに変わっている。そして結果、フラットのようだが起伏を備えた、興味深く飽きのこない響きが出力されている。