ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

レディーフィンガー: かなり奇妙なロマンスを失った (2019) - 海の怖さを、思い知りましょう。

2017年から活動中の《レディーフィンガー》は、素性がまったく不明なヴェイパーウェイヴ・クリエイター。その既発アルバム13コはすべて、《B O G U S // COLLECTIVE》からリリース。

この人についてはサンブリーチに紹介記事がけっこう出てるけれど、しかしそちらにも、〈完全に匿名のアーティスト〉とあるのみ()。だがその評価は高いようで、〈BOGUSレーベルを代表するプロジェクトのひとつ〉と呼ばれている。

で、自分がこの人に興味をいだいたのは、スラッシュウェイヴ()の有力クリエイターのような説を風聞したからなんだけど。じっさい一部のアルバムには、スラッシュのタグが打たれているんだけど。
しかし聞いてみたら、かなり違っげェ〜! ただ、各楽曲の長さが、短くて10分強、長ければ70分以上(!)というムヤミな長大さに、スラッシュ臭がなくはないにしろ。

では、レディーフィンガーは何なのかというと。オレの聞いている感じでは、とりあえずダークアンビエントに近いんだよね。
その楽曲らの多くが重ぅ〜いドローン系で、ふんいきが怖い。また、すなおにシンセ等を鳴らすだけでなく、何らかのサンプルをグチャメチャに加工してドローン風にしているふしもある。ウラで何か、ヤバい処理をしてそうな気がして怖い。

ここで再び、サンブリーチさんを参照すると。このサウンドは、ダークアンビエントにも近い《Vaporgoth》であり、かつ《Oceangrunge》の影響を強く受けていそう、とか。
「ゴスっぽいヴェイパー」と言われたらほとんどそのままで、まあ分かったような気にもなる。だがしかし、「オーシャングランジ」とは、いったい何っ!?

……いまはそれほど流行っていないようだが、ダークアンビエントと陰気なヘヴィメタルとのはざまから出てきたサウンド、それがオーシャングランジであるらしい。また、《Seapunk》の憂うつなバージョン、という説明もあるようだ。
で、それは、海洋のあまりな茫漠ぶりと広大さ、そして船舶を襲う嵐、難破、遭難……といったことらをモチーフとする音楽であるらしい。たぶん、E.A.ポーの「アーサー・ゴードン・ピムの物語」を、音楽でつづったようなもの?

そして、ヴェイパーウェイヴの分野でこのオーシャングランジを代表しているアーティストが、《§E▲ ▓F D▓G§》こと、シー・オブ・ドッグスを名のる人であるもよう()。2014年から現在まで活躍中だが、とくにその、初期作品らについて。
で、試しにそのシーさんの音をもちょっと聞いてみたら、なるほどふんいきがレディーフィンガーに似てなくはない。……海の怖さを、切に思い知ることができるのだった。

さてレディーフィンガーなんだけど、その最新アルバムである「かなり奇妙なロマンスを失った」。これは少し、トーンを変えてきている感じもある。
人がすなおに思うようなドローン作品ではなく、何らかのサンプルらをヘンに処理することで、どんよりと不気味な響きを作る──。そういう手法に、不要な洗練がきわまりつつあるのかも知れない。

このアルバム、全6曲で計60分あまり。そのいずれのトラックも、まず〈何らかの既成の楽曲をきょくたんにスローダウン〉、という処理からできていることは確かそう。
だがしかし、ピッチとテンポを復元した(つもり)くらいの分析では、もとがどういう音楽だったのか、さっぱ〜り見当がつかない。ウラでなされたヤバめの処理が、意外に高度なものなのだろうか。

とくに印象的な楽曲が、5番めのトラック「ロマンス5」。海の巨大なモンスター、その恐ろしくも哀愁味あるおたけびか遠吠えみたいなサウンドで、怖さもひとしおだが、しかし何か心ひかれる響きなんだ。

が、それにしても……。これもまあイイんですけれど、やっぱりオレらのヴェイパーウェイヴは、ワリに軽薄でバカっぽくて愉しいサウンドを希望かなっ?