エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

𝙳𝚒𝚐𝚒𝚝𝚊𝚕 𝙰𝚞𝚝𝚒𝚜𝚝: 𝙶𝚑𝚘𝚜𝚝 𝙸𝚗 𝚃𝚑𝚎 𝚂𝚊𝚕𝚎 (2020) - ウチは日本一不幸な少女やねん

じゃりン子の《チエちゃん》が大きくなったらこんな感じになるのだろうか、と思わせられるナニワ系丸出しのお嬢さんをフィーチャーしたカバーアート。立ちのぼるホルモンの匂い。
そして「攻殻機動隊」をもじったらしき「ゴーストインザセール, Ghost In The Sale」というアルバムタイトルは、サイバーな感覚とヴェイパーウェイヴ持ち前の(アンチ・)コマーシャリズム、その両方をハッキリ堂々とアピール。
さらにアーティスト名等々を表示している文字が、ご覧のように何かヘンな、ヴェイパー界でもなければ使われそうもないしろもの。このさい、読みに悩むことはないのが救いだけれど。

というわけでこの《ディジタル・オーティスト, Digital Autist》、すなわち離散的自閉症者というヴェイパー・クリエイター、スペイン在住と称し2018年あたりから活動しているようだが()。その最新アルバム「ゴーストインザセール」は、ひとまずの特徴づけには成功している気配。けっこう興味をひいてくるところがある、少なくともオレがまんまと引っかかった。

ところがそのようにキャッチーな見かけに対し、約60分間・全20トラックにわたるその内容は、ワリと混沌とした感じ。出だしの印象では。
各トラックの質はけっして低くないけど、しかし曲ごとにふんいきがコロコロ変わって、全体がどこを向いているのか分かりづらい。それと一部のトラックで、日本語の女子大生のおしゃべりみたいなパートが、マジ頭悪そうな感じでイラッとさせられる。ったく、どこからこんな音声を拾ってきたんだか。

かと思ったらアルバムの後半はかなりよくて、その中でも終盤の5〜6曲くらいのブロックはひじょうにいい。眠りであるのか衰弱であるのか、さもなくば《死》か、ヤバめな感じの安楽さの深みへ、スルスルと墜ちていく感じが真に迫っている。
全体でもっとも印象的なトラック“Red Lights”は、出どころ不明のブルージーなジャズギターの演奏の上に、日本語の女性の語りおよびスゥ〜ハァ〜呼吸音が重なった6分間。“Red Light”といえば売春のシンボルなので、何かエロい話になっているのかと思ったんだが、しかしよく聞いたらそうではない。

息をゆっくりと吸って……ゆっくりと吐いて……リラックスして……
すべての細胞を休めて……おやすみなさい……

だいたいそのようなことを言っている、入眠促進や催眠術みたいな音声なのだった。再び言うけど、いったいどこからこんなネタを拾ってくるんだか。ったくヴェイパーとそのピープルってなァ愉快だぜ!
やがてこの曲が、無音の環境からマイクがなぜか拾い上げる空気の音みたいのに包まれながらフェイドアウトする。と、次に送り込まれた先は、眠りの中なのか、または彼岸の世界なのか、この世ならぬ不気味なやすらぎの演出される中で、しかしわれわれは落ち着くことができない。

そうしてラストの20曲めは、1980年代のあさはかなポップみたいのを超スローダウンしカットアップした短いトラック。何か、「ラヴ!ラヴ!」みたいな歌詞が連呼されている気配。言うまでもなく、ここでまたふんいきが急変しちゃっている。
これは楽曲というよりも、アルバムのエピローグ的なパートなのだろうか? たぶんここにも、何らかの《意味》はあるんだろうけど。

という約60分間のサウンドトリップを終えて、さいごにオレからひとこと。
述べたようにいいところもけっこうあったんで、今後のディジ・オーさんには、テーマだかコンセプトだかへの集中を感じさせる制作を望みたい。それと、カバーガールのじゃりン子チエさん(もどき)がほとんど内容に関係ない感じだったのは、少し残念でなくもない。

【追記】 出もとのレーベル《Tomorrow Entertainment Records》のアドレスが変更されたので、リンク先を修正しました。