エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

haircuts for men: nothing special, nothing wonderful (2020) - 人類と非人類のバランスをとる緊張で撃ち抜かれました。

在ホノルルを主張しているヴェイパーウェイヴ・クリエイター《ヘアカッツ・フォー・メン》は、オイラにとって最初で最大で最高のヴェイパーヒーローであり続けている巨星。そしてこれから話題になる“nothing special, nothing wonderful”は、その現時点における最新アルバム。
これについて自分は、ヘアカッツがこの2年くらいずっとやっている果てしなくスムースで快適なヴェイパーホップではありつつ、しかし低音の鳴らし方が何か変わってきたか、という印象を受けた。以前よりファットになっているのでは、と。

言うまでもなくR&Bとそこから派生した音楽(つまり“ほとんどすべて”のポップ)において、低音とその鳴らし方は、死にものぐるいで超インポータントな事項。その重要性は、近年ますます高まり中。
けれどもビックリだが一般にヴェイパーは、低音に対してかなり態度がクール、もしくは投げやり。場合によってはさらに冷たく、そこをゴソッと削って全体を超ドライな音にしちゃったり。
というヴェイパーの低音虐待は、まっとうなマーケットに流通する一般ポップへのアンチテーゼ……もしくはイヤがらせだと考えられる。例のごとく、分かった上で、わざわざヘンな音を出していやがるのかと。

そういうヴェイパーの世界の中だと、今アルバム「ナッシングうんぬん」の低音はあまりにもリッチでスイートで、そして皮肉な意味でゴージャスにも聞こえかねない。そこ以外の面でも全般に、《音楽》へ寄りすぎかって感じがなくはない。
このようにわりかしふつう気味であるところが、アルバムタイトル“nothing special”の意味なのだろうか? そうだとしても、気持ちいいサウンドだからコレでええやんケとワシは思とるけどなブヘヘヘヘ。

さて、これを本場のリスナーたちはどない聞いとるんかいのうと思って調べたら、レベルの高そうなレビューが見つかった()。英《No-Wave》掲載記事、アンドリュー・オキーフ氏によれば──。

《男性のための散髪: 特別なものも素晴らしいものもありません》

ここでは、音色のサックスとループ、無関心なビート駆動のファンクリフなどの基本が素晴らしいスタイルで実行されます。夢のようなシンセトーンはトラックの表面の下で微妙に揺れ、テクスチャを深めます。サンプルが選択され、適切に展開されています。このアルバムは、冷酷で冷酷な皮肉に満ちているのではなく、ほろ苦い甘いエッジを保ちます。

「私の妻は燃えさかる」のようなトラックでは、これらの要素の複合効果はMF DOOMビートのように聞こえます。ファンキーですが、少しギザギザで形が崩れています。リッチで暖かい。人類と非人類のバランスをとる緊張で撃ち抜かれました。

これは、コイルの最近の『The Gay Man's Guide to Safer Sex』のようなものであり、多くの過去のポルノサウンドトラックです。トラックは官能的ですが、奇妙に切り離されています(かなり少数の蒸気波トラックについて言えることです)。それは、ハイエンドの明瞭さを失うことなく、いくつかの大規模なキックを強調する、異常に強力なミックスの恩恵を受けます。

(──グーグル翻訳の出力から抜粋──)

──と、楽曲面とサウンド面の両方について、かなりホメてくれているもよう。オキーフ氏はヴェイパー界の外部からモノ申されている感じなので、これぞ客観性ある評価なのか。また氏が、ヘアカッツの音楽がコソコソと表現しくさっているイヤラシさ、ポルノ趣味をキチっと指摘しているところにも共感させられる。
ではあるが、今アルバムにはすごい目新しさはないし、かつまたヴェイパーの真髄って感じでもないかな……くらいに述べられているような。

ところで引用文中の《MF DOOM》とは、ヘンな仮面をかぶってるので有名なアメリカのラッパーのこと。知らなかったんで少しそのヒップホップを聞いてみたら、確かに似てなくはない。道理でうちらもヘアカッツを、ヴェイパー・“ホップ”と呼んでいるわけで。
もうひとつ、文中の《コイル》とは例のスロッビング・グリッスル関係のインダスバンド。その「ゲイ向けセーフセックス入門」は、1992年のドキュメンタリービデオのサントラ。

……いやあTG系なんてヴェイパーとはぜんぜん違うんじゃねーの、とも思ったのだが。しかし、さいわいそちらもBandcampに出ていたので一聴してみた。
そうしたら、かなり似てなくないことにビックリしたのだ。いずれも、なんかこう《音楽》をナメてるヤツが作ったような擬似エレクトロファンクで。かつ汚れた肌着のベールをかぶったような音質のくすみ、そして隠微なスケベムード、そのあたりまで共通して。

われらがヘアカッツの音楽的冒険は、まだまだ始まったばかり。オレはそう信じるけれど、そのひとまずの通過地点のひとつが、こういうインダス風味のエレ・ファンクであるのだろうか?