エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Jonsi & Alex Somers: Lost and Found (2019) - わたしは昇る

アイスランド出身のポストロック系有名バンドである、シグ・ローシュ(Sigur Rós)。そのメンバーらによるアンビエント系ユニット、ジョウンシ&アレックス・サマーズ。
そしてその傑作1stアルバム“Riceboy Sleeps”(2009, )から、ちょうど10年ぶりのフルアルバムが、この“Lost and Found”。

サウンド傾向は10年たってもあまり変わっておらず、深みある空間の中でナマと電子の音素材らをやさしく融合させていく。メロディックでありドローン風でもあり、どっちにも行ききらないバランスの取り方がうまい。

このユニットでひとつ、前作とあわせて特徴的だと思うこと。メロディなんてものはいったん上がったら下がるしかないわけだが、しかしジョウンシ&アレックスの楽曲は、音程が上がったまま高みに張りついた感じの演出に妙味がある。
ふつうアンビエントの作り方として逆に、音程の下降する局面を強調して位置エネルギーの低みと安定感を演出するのは当然アリだろう。しかしこのユニットは上昇と高さの局面にアクセントを置いて、それが独特の浮遊感──ふみ込んで言えばウツから抜けていく感じ──の創造に貢献している。

ところでこの新作アルバムの2曲め“Boy”は、前作でもっとも印象的だったトラック“Boy 1904”の……何と言うかリエディット、もしくは焼き直しだと考えられる。
テクノロジーの補助によりコーラス風にボカされた女声ボーカルが、宗教曲みたいにきれいなメロディを歌い上げる、このユニットの真骨頂らしき部位を示したトラック“Boy 1904”。すばらしいのでもういちど、という気持ちはまあ分かる。

ところが奇妙なのは、リエディット版と目される“Boy”は旧バージョンより約3分ほど尺が長いのだが、それは大まかに言えば旧バージョンの末尾に新パートが付加されたせい。で、その新パートが、何かちょっとヘンな感じのドロンドロンしたドローンなのだ。
自分の推測によればこの新パートは、もとから存在した要素をデジタル加工でスローダウンか何かさせ、ついでにリバーブ等をかましたもの。つまり、おなじみのヴェイパー処理に近いことがなされている(らしい)のが興味深い。