ポ  サ  研

─ ポスト真実 のサウンド研究, ヴェィパーゥエィヴ と仲間たち, 欲望 複製 反復 ─

Floridamphetamine: ͝↠↠ICE̻ BEAM (2015) - ポケモンマスターに、オレはなる! ならないと限った話でもなくはなくない!

ヴェ〜イィ〜! さて、Vaporwaveの話なんだけど。
近ごろになって思うのだが、自分はこれまでヴェイパーウェイヴってものを、意外と甘く軽く見てたのかも知れないなって。いや、思ってた以上にこれはすごいのかな、という気がしてきているのだった。

……むかしむかしの1987年、PhutureことDJピエールが偶発的に発見した(とされる)アシッドマシーンTB-303のプクプクプー、ビュキビュキビュイーという響き。その白痴的な反復がもうひじょうにバカ丸出しではありながら、しかしそれ以降のPOPの“すべて”を変えてしまった。
そしてわれらがヴェイパーウェイヴの《遅くする》、それもだいたい他人さまらの創造なされた貴重な楽曲らを無惨に遅くして私物化する、というバカのひとつ憶えの蛮行らの常習的反復もまた、ことによったらアシッドハウスに匹敵するインパクトが今後にないとも限らない。と、いう気がしてきているのだった。

むしのいいことをここで空想すると、アシッドハウスの横行蔓延がベルリンの壁を崩壊させた(とも言われる)のと同様、ヴェイパーの大流行は、トランプ政権がアメリカ-メキシコの間に築こうとしている壁あたりをどうにかするかも知れない。ただし現状そこまではヴェイパーが流行ってないし、そもそも外国の話なので、われわれがどうにかする必要がある。

かつまた、アシッドハウスと並べることでお察しのように、手法としてのこれらは発見的だが模倣するなら容易すぎるしろものとも言え、とほうもない量の駄作・凡作・追随作らを生み出す温床となりうる。というかすでにそうなっていると思うけれど、しかしそこらは当面の問題ではない。
まず、何でもいいのでヴェイパーウェイヴを大流行させ、社会現象にしてしまうことが急務。質の追求は、必要だとしても、その次。

で、ご紹介しようとしている、「Floridamphetamine: ͝↠↠ICE̻ BEAM」(2015)というミニアルバム。これは何だか分からないけれど、作者だというフロリダンフェタミンは、ご存じヴェイパー界の一個の雄であるDMT Tapesのオーナー《Vito James Genovese》の偽名であるらしいが……。
というかヴィート・J・ジェノヴィーズの偽名変名の数があまりにも多すぎる風で()、すると……あれッ? DMTテープスの膨大なリリース群の、へたしたら半分とかそれ以上を彼ひとりが作っているの? という疑問にもいたりそうだが、しかしそうだったらどうだというのだろうか?

ともあれ自分の注意をひいたのは、アルバムの3曲め「I'm Gonna Be a Pokémon Master」というトラックで、いやもう、こんなのでどうやってポケモンマスターになろうと? ひたすらにスローで遅くてドローンであるような6分半ほどの曲だけど、しかしその再生速度を上げていくと、素材にされた原曲の姿が何となく見えてくる。
たまに間歇的に聞こえるズシュワァー、という音が、実は2拍4拍のバックビートのスネア。それを頼りに推測すると、だいたい原曲の速度が25%くらいに落とされているのかな、と思えるのだけど。

25%くらいか……ってまあ、よくぞそこまで落としたものだ。これはまさしく顕微鏡世界へのダイブであるに他ならない、と、ちょっと自分を感服させないことはない。このひたすらにスローで遅くてドローンな響きに、魅かれるところは大いにある。
そしてこの死ぬほど遅くされてしまった原曲が、ひょっとしたらポケモン関係のサウンドであるのかも、という気配は感じるが、でもそれは自分には分からない。その関係の解明は、ポケモンマスターになろうとしている方々に超おまかせ!

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

ただ、このひとつの快挙を達成したフロリダンフェタミンが、天才アーティスト……だなどと言う気もなくて、この名義による他のアルバムもたいがい聞いてみたが、するとロック風のうるさいやつとか、漫談めいた語りの長々しい引用とか、いまいちわけの分からないのが多し。相対的には聞きやすいのが最新作「Outdated Contemporary Reference」(2018)だが、それにしても、ご紹介した「ICE BEAM」ほどに冴えているところはないようだ。
これは、まあ。DJピエールなんてハウスクリエイターとしては最優秀なほうだけど、しかし“すべて”の彼のリリースが銘盤であるとも言えない、ということに対応した現象なのだろうか? わりとヴェイパーウェイヴにしてもそうしたものらしいので、われわれは気楽にてきとうに根気よく愉しんでいくことを、いまここに誓わなければならない。