エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

アポロ - くん~: Shoujo Doujinshi 今ではマイ・コンピュータがかわいい女の子である! (2018) - はい。

ヴェ・ヴェ・ヴェ! さあ、Vaporwaveのお話を、一席ぶちますですよ?

さて今回は、すでにちょっとおなじみくさい《DMT Tapes》の2018年暮れのリリースから、イケメンくんのカバーアートが印象的なアルバムをピックアップ、「アポロ - くん~: Shoujo Doujinshi 今ではマイ・コンピュータがかわいい女の子である!」。さいしょにいきなり評価を述べてしまうと、ちょっと哀愁ムードのただようMallsoft(スーパーのBGM風ヴェイパーウェイヴ)もしくはアンビエントもどきの秀作でご一聴をオススメ!

さて、マイ・コンピュータがかわいい女の子である──というこの主張、それを分かりすぎるほどに分かってしまっていいものなのだろうか? ヴェイパーなんだからとうぜんなんだけど、言っていることが何とも1990年代的だ。

ここでつまらないことを想い出すと、大島弓子「四月怪談」の映画版(1988, 小中和哉)で、不可視のユーレイ(実は生霊)になってしまったヒロインが、生前にちょっと気になっていた同級生の私生活を覗きに行く。するとその秀才タイプの少年は、シャープ製ホビーパソコンの名器X68000に向かってポチポチと、一心不乱に、アニメ系美少女のドット絵を描いていやがる。
マニアの人には《ペケロッパ》などとも呼ばれたX68kの発売が1987年だというので、けっこうタイムリーなアピアランスだったのだろうか。さすがに近ごろ話題にならないけど、しかし「ニンジャスレイヤー」シリーズにおいては、《ペケロッパ・カルト》として現役活躍中なのが奥ゆかしい。

いやペケロッパであろうとPC-8801であろうと、現実の女の子から想いを寄せられているかも知れないのに、美少女CGのお絵かきに没頭しているこの少年、ということが問題。電脳世界の0/1連鎖のかなたに、ユートピアを求めすぎなのでは? 
が、いまはもうインターネットとやらが一般に普及しすぎて、この世界もすっかりなまぐさくなり。そこでIRCとかSNSとかの向こう側に、ナマ身の(かわいい)女の子らがいないこともないかも──という幻想が、「マイ・コンピュータがかわいい女の子である」という幻想に、とって代わりつつあるのだろうか。

まあそんな余談はともかく、この全10曲のアルバムの、冒頭と終盤の曲名らを並べると、「オタク」-「彼女は登場した」-「どうしたの-」-(中略)-「最高の夜」-「締め切り」-「彼女は行ってしまった」。
するとおそらく。オタクである男性の前にコンピュータの中からかわいい女の子が現れ、中略されたエピソードらを経て、ついに結ばれるが、しかしそこらがタイミリミットで、彼女はどこかへ去ってしまう──といったストーリー性が、そこに盛り込まれているのか、とも思われてくる。

にしたって、カバーアートの美少年が、そのオタクくんなのだろうか、似合わない役どころだ……。つまり少々、「四月怪談」映画版の鈍感ペケロッパ少年みたいな子なのか。
それとタイトル中の、「Shoujo Doujinshi」というところもちょっとヘンで、《少女同人誌》といったらボーイズラヴかなあ、という気にさせられる。《“美”少女同人誌》でなければ……ってまあ、そんなことはいいか。

そういうストーリー性があったところでなかったところで、音楽自体は全体的にきわめてスムース。90年代末期の泣きゲー》(泣かせを主眼とするアダルトゲーム)の湿っぽいテーマ曲みたいなサウンドで始まるが、曲らが先に進むほど、スロウ&スムースすぎて眠たいでしかないような響きになってくる、そこが実にすばらしい。
そしてさいごは冒頭曲のバリエーションで終わるので、やはり述べたようなトータル性が、なまいきに意識されている気配。孤独で始まり、つかの間の悦びを経て、再び孤独で終わる、と……! ああ。

さて、これの制作者の《アポロ - くん~》の正体は、マドリッド在住の《DJ Apolo Trevent》)。その変名らの主なものが、SEPHORA脳バイブス、SEGA VR、KONAMIBOYZ……等々々とあり、それら掘り下げていくと何かいい音が出てきそうなので、自分はワクワクしている。