エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

自決 9 6: Haha Technology (2017) - イッ・ソォ〜・ナァ〜イス♪…と歌ってひたすらに下降

ヴェイプ!(ごあいさつ) さて“vape”という語を英語として調べると、「無煙たばこを吸う」を意味する動詞だと言われる。これはむろん新語で造語のたぐい、だって大むかしには無煙たばこなどなかったので。
オレはいまだ有煙派だけど、まあ無煙もいいよね。…なお、おなじみの電気蚊取りの商標《ベープ(Vape)》のほうが大むかしから存在しており、その誕生は旧くも1963年だとか()。
で、そのあたり調べていると…

世界初の電気蚊取り器第1号『ベープ』。英語のVaporizer(蒸発器)に由来して『ベープ』と名付けられた。

…というフレーズがネットのあちこちに出ているのだが、しかし「そもそもの“英語のVaporizer(蒸発器)”とは、いったい何に使われる道具だったのか?」ということは、調べがつかない。
いまの英語では“Vaporizer”イコールその無煙たばこ用マシーンなので、それ以前の意味は見失われている。マルセル・デュシャンの作品に関連する《チョコレート磨砕器》というなぞのマシーンが、100年くらい前に存在した(?)らしいのだが、それ並みに気にならないこともない。

ここから本題、さて今記事は「自決 9 6: Haha Technology」(2017)のアルバムレビューみたいなあれだけど、なぜこのチョイスかと言うと、Bandcampがみょうにしつっこくサジェストしてくるから。
いや、その推され具合ではあの「2814: 新しい日の誕生」(2015)に及ぶ(!!)…くらいのものがなくもないので、ことによったらすごいのかな、と。ジャケ写の浴衣美人ペアもキュートだし。

で、すなおに聞いてみた感じ、「既成楽曲のラウンジめいたサンプルらを小汚く加工」という手法はおなじみのものだけど、しかしこの自決さんの場合、出力結果に音楽っぽさが残りすぎなのではなかろうか? もとの曲のヤマ場的なシーンの盛り上がりをちゃんと残しているあたり、Vaporwaveとしたらよけいな善意なのでは?
自分は思うがヴェイパーであるなら、もっと悪ふざけに走ったほうがいいような気が。だがしかし、この「音楽っぽさをかなり残している」という特徴が、一般的な評価の高さにつながっているのかも知れない。

…と思ったらラスト前に、ひっどい悪ふざけの曲が出てきた。ちょっと言い方をぼかすけどボサノヴァの名曲みたいのを、たぶんウヲル夕ー・Oneダレイがオルガンで弾いているバージョン、あれをグッチャグチャと好きかってにカットアップしただけのトラック「Elevrrrtor」、約2分間。
…いや、何回か聞いたら意外に単なるデタラメでもなさそうで、原曲では「イッ・ソォ〜・ナァ〜イス♪」という歌詞がついて音程が下がっていくところ、あのフレーズのひんぱんで唐突な出現に、何かアクセントがあるもよう。その印象的な下降っぷりを、こっぴどく印象づけようという構成なのかな、と推測。

それにしてもこの「Elevrrrtor」つまりエレベーター(?)、いったいどこまで低く深く下降したら気が済むのか、はァ…。と、趣味のよくない自分はちょっとヘンに心を動かしているけれど、しかしカタギの衆が聞いたらこんなもの、悪ふざけにもならないカス以下のイヤがらせ、なのだろうか。
さらに自分とて、これと同じようなトラックが10コ入ったアルバムとかあったら、さいごまで聞き通せる気がしない。かつこのエレベーターもどきはヴェイパーっぽい曲だとも言えないが、まあいいよね。

薔薇の香りとやすらぎを、ここで貴方に…

ところでさいごに、Sunbleachを見るとこのアルバムの紹介として、<Haha Technology とはコケティッシュなタイトルで>、うんぬん、と言われているようだ()。……コケっ? “Haha”を《母》と解釈してコケティッシュ、なのだろうか?
だがしかし、今アルバムの第9トラックのタイトルが「HAHA! (Huntsville Amateur Hockey Association!)」とあり、そこを見た限り“Haha”とは、ハンツビル・アマチュアホッケー協会の略称であるみたいだけど。…いやそのホッケー協会と《母》との間のひそやかな意味のつながりを、誰かが感じているのかも知れないし…?