エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

videoscapes: from the roofs of skyscrapers (2019) - オレは自分を《ここ》に埋葬し続ける

《videoscapes》という、わりに何気ない名前のヴェイパーウェイヴ・クリエイター。彼の素性はいったいどういう──、といった話はあと廻しとして。
そのヴィデオスケープスという名前で世に出ている作品は、いまご紹介している“from the roofs of skyscrapers”、このアルバム1作のみであるよう。

これは摩天楼ビルの屋上──、またはその最上階あたりでなされる、ハイソでラグジャリーなナイトライフが、ばくぜんと描写された作品である感じ。ジャンル的には、まあレイトナイト・ローファイだと言えそう()。
そしてレイトナイト系のお定まりに従い、むかしっぽいR&Bやどうでもいいような軽フュージョンといった素材らが、音質劣化をこうむりながら切り刻まれ、ループされている。そんな全10曲、約25分間のアルバム。

──と、そこまではありきたりなんだけど。

しかしこのアルバムが興味深いのは、述べた“音質劣化”のヤリようが、実にハンパない。全曲が恐ろしいまでにまぁる〜くモコついた音質で、ただ眠たいというよりか、耳に刺激がないにもホドがあるのだった。
これはもうまるで、コンクリの集合住宅の、壁や天井を通り抜けて聞こえてくる音のよう。しかしそんなでも、本来どういう音楽だったのか何となく分かる、それがみょうに面白い。

さてこの実に大胆なアルバムの作者、ヴィデオスケープス。その同じ人による、他の作品というのはないんだろうか? それを調べていたら、ちょっと驚くべき光景を、オレは見てしまったんだ。

すなわち。音楽データサイトのRateYourMusicによると、ヴィデオスケープスの正体は、《Claud Sheffner》というロシアの人()。とりあえずクロード・シェフナーと読んでおくけど、あまりロシアっぽくない名前。が、そこまではいいとして。
しかしそのシェフナー氏の偽名や変名やバンド名として、たぶん100コくらいもの名前っぽい文字列らがズララ〜っと見えているのは、オレの目の錯覚か何かだろうか。そうであることを、逆に願ってしまうんだけど。

そんな100コほどものバンドをいちいちチェキしているわけにもイカないが、たぶん、こういうことのようだ。──シェフナー氏は2015年くらいから音楽活動を開始、そしてその100コくらいもの芸名らを次々に使い棄てながら、現在まであちこちに、ヴェイパーおよび種々のインチキくさい電子的ポップらを発表してきた、と。

そこまでの猛然たるイキオイで芸名らを使い棄て続けることに、何かメリットってあるんだろうか? いろいろな理由で別人や新人を装うことがあるのは知ってるけれど、しかし、これは明らかにトゥーマッチなのでは?
これを自分の言い方にねじ曲げると、こういうことか。2016年あたりを頂点とするヴェイパーウェイヴのブーム、その時期に次々と現れては消えていった、超大量の泡沫的なバンドたち──それらの一部をシェフナー氏は、ほぼ意図的にクリエイトしていたのだ、と。

何ンせ名前が《蒸気》とかっていう、そんなはかない音楽ジャンルなので、〈泡沫ゥ? 上等でェ〜いっ!〉のような覚悟は、ワリと広く共有されているのかも。……が、それにしても。
〈オレは自分のアイデンティティを、このクソ大量のクソバンドらのクソ作品らの中に葬る〉。──そんなことをシェフナー氏が考えている(いた)のかどうかは知りえないが、でも実質的に、〈そんなこと〉を実践してしちゃっているのでは?

ところでシェフナー氏によるらしい作品で、もう1コじっくり聞いてみたのが、バンド名《寝台永遠》による、「国際通信」(2018)というアルバム。
するとこれは、まあ、ごくふつうのシグナルウェイヴ作品()。ニホンのテレビの古いCMサウンドらをフィーチャーした、全15曲・約19分間のアルバム。

いや、〈ふつう〉っていうのも実に失敬なんだけど。でもこういう種類の作品を大量に聞きすぎているんで()、その上で、あまりきわだったところはねェな、という感想になっちゃった。かつ、ダメって感じられるところも別にない。
そんな、よくも悪くもないっぽい作品だが。でもシェフナー氏にとっては、その水準が、逆にツボだったりするんだろうか。自分自身を、このムーブメントの中に葬ろうとしている彼としては……(っ!?)。

かつ。シェフナー氏のヤッてきたことはあまりにもハイパーに思えるワケだけど、しかしけっきょくは、“誰も”が同じことをしているのだろうか。オレらはオレらのアイデンティティを、ヴェイパーウェイヴの中に葬り去る。このヴェイパーと呼ばれる泡沫(うたかた)の微弱な響きが、いずれオレらの墓標となる。
そして願わくばその響きが、微弱ではあれ、とこしえに絶えないように……なんてね。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Interesting Late Night Lo-Fi album by videoscapes, "from the roofs of skyscrapers" (2019). The process of degrading the sound quality is really powerful, and it is as if it were the music leaked from the next room. The sound is interesting.
According to RateYourMusic, the true identity of the artist "videoscapes" is Claud Sheffner in Russia (). Probably around 2015, he's been using and throwing away pseudonyms of up to 100, and releasing vaporwaves and related electronic pops everywhere.
A strange creator. Is he trying to bury his identity in a movement called Vaporwave while spreading his identity?