エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Anna Fox Rochinski: Cherry (2021) - マジ童貞!? キモーイ! 童貞が許(後略)

《Anna Fox Rochinski》──米マサチューセッツ州出身の女性歌手、アンナ・フォックス・ロシンスキーさん()。
2009年から彼女は、サイケフォーク的なドリームポップのバンド《Quilt》の一員として、ご活躍なされています()。このバンドでは3作のアルバムが出ていますが、それぞれ評価がやや高いもののようです。

そのアンナ・ロシンスキーさんの、初のソロアルバムが、ご紹介いたします“Cherry”です。
2021年3月・発の最新アイテムであり、その音楽スタイルは、ローファイ気味のエレクトロポップくらいに言えそうです。全10曲・約38分を収録。

そして?

何しろアルバムのタイトルが《チェリー》であるだけに、〈どうせ、“オレらの陣営”に対するディスなんだろっ、えーっ!?〉、といった思い込みが、私たちのサイドには生じがちでしょう。
異なるでしょうか?
そしてそう思い込んだとすると、謎めいた青空にワク取られたカバーアートまでが、かのM$社か何かと結託しつつ、みじめな童貞らを憐れんでやまぬ、晴れやかな勝利のフィーリングでしょうか。

──あ、で、さて。今アルバムの7曲めが、そのタイトル曲「チェリー」なのですが。
その歌詞は、だいたいこういうもののようです。

私は彼を決して入れません
荒天の時は警備員が上がっているので
私はそれを知覚する良い方法がありません
どうしてそんなに強迫的になったのですか?
私がスパイラルを何度も見ている
彼らはただ「それは残念だ」と言うだけです

 

正直なところ、彼のために病気になるのは悪い労働です
(死ぬまでさくらんぼ、目にさくらんぼ)
正直なところ、私は私の心がより良いプレーヤーだと思いました
(チェリーは嘘です、チェリーパラダイス)

……と、すれば。〈マジ童貞!? キモーイ、キャハハー〉などと、そこまでストレートに言われてはいないようですが。
しかしやっぱり何となく、《われわれ》を愚弄している感じがゼロだとは?

あ、いや、まあ、冗談はこれくらいにいたしまして。

Quilt: Plaza (2016) - Bandcamp
Quilt: Plaza (2016) - Bandcamp
キルトの、“最新”のアルバムです。
アレンジが生バンド寄りです。

その歌詞の意味とかはよく分かっていませんが、ともあれアンナさんのソフトなボーカルが耳に快い、聞くに愉しいアルバムだと考えています。この『チェリー』は。

それのタイトル曲つまり「チェリー」が、とくに出色なのです!

──なぜなのかその曲は、8ビットゲーム機めいたチップチューンで始まります。ピロリロリー
続いてナチュラルトーンのギターが、フォークとマスロック(math rock)をまたぐようなリフで鳴らされます。
さらに続いて、アンナさんの甘く伸びやかなボーカルによる童貞告発、へと運びますが──。

そして、その楽曲の全体にわたり──かつアルバムの全般にもわたり──、エレクトロ的抽象世界とナイーブでドリーミィなフォーク世界とを、意味も分からず往復し続けているようなワイド感。これが奇妙にいいんですよね!

と、いうわけで、《われわれ》ことミソジニーインセルの高齢童貞アーミーも、アンナさんを大いに赦しましょう。《赦す》ということの尊さ、それを誰もが少しずつ考える。

Kevin Richard Martin: White Light/Red Light (2021) - そんなグラデーション、暗さから暗さへの。

《Kevin Richard Martin》──ケヴィン・マーティンさんは、イングランド出身のエレクトロニック系ミュージシャンです()。1990年あたりから活動されているようです()。

このケヴィンさんの最新作、今2021年初頭のリリース品らが、“White Light”および“Red Light”、という連作めいたアルバム2作です。
これらのスタイルは、ダークアンビエントです。2作あわせて、10曲・約79分が収録されています。

そしてダーク系として、ふだん私がついつい聞いている、《Cryo Chamber》のシネマティックでドラマティックなテイストとはまた違う()、かつティーヴ・ローチさんのニューエイジ風味で宇宙的なダークとも異なる()、その淡々とした暗さに、フレッシュさが感じられました。

いいと思います。実用オーケーです!

で、さて。このケヴィンさんは近年まで、どちらかというとインダストリアルの方面で、彼の音楽キャリアを積み重ねてきたようです。
ここまでの彼の最大のプロジェクトと思われるのが、《The Bug》という一人バンドなのですが、これはどうにもインダス・ヒップホップとでもいうような、また実にチン妙な音楽です()。
けどまあそれらが、ニンジャチューンやリフレックスのような、ともかくも名の通ったレーベルらから出ていたそうなのですが……。

そうして現在ケヴィンさんは、この本名の名義にて心機一転(?)、ダークアンビエントに取り組もうとしておられるようす。それは、とても歓迎できるトライです。
ですがしかし、2020年・夏くらいの作品までは、まだインダスの尻尾がついていた感じです。あまり耳にやさしくないパートが、散在しています。

それから追って2020年11月リリースのアルバム、“Sedatives”)。このあたりから、私の強く共感できる、どんよりしているだけのダーク系サウンドになっています。達成です
そしていま、2021年。ホワイト&レッドのペア作品で好スタートを切ったケヴィンさんの、ますますのダークな躍進に、大きな期待ができると思います!

3D BLAST: Music, Here To Stay (2021) - 成功していくヴェイパーウェイヴ

ミシガン州デトロイトに在住だというヴェイパーウェイヴ的クリエイター、《3D BLAST》。2015年からご活躍であるようです()。
この3Dブラストさんの名は、ヴェイパーというよりも《フューチャーファンク》の成功したプロデューサーとして、すでに広く知られているでしょう()。

そして、そのフューチャーファンクで成功しているレーベル《business casual》から、本年1月末にリリースされた3Dブラストさんの最新アルバムが、“Music: Here To Stay”です。
彼のフルアルバムとして2019年以来の作品であり、全9曲・約36分を収録しています。

そしてビズ・カズ社のWebページによると、このアルバムは限定250枚のヴィニール盤が、すでに完売しているとか。これがまたこの世界では、かなり大した成功だと言えるでしょう。

ところで?
実を言いますと私は、この3Dさんの諸作品について先日まで、〈まあ、フューチャーファンクですよね〉──くらいの印象しかありませんでした。私たちのヴェイパーウェイヴであるよりは。

その私が3Dさんの、この新作『ミュージック:ヒア・トゥ・ステイ』に、注目した理由は──。
それは今作が、おなじみのヴェイパー関係ポータルサイトユートピア・ディストリクト》のレビューにおいて、5/5点という大成功を収めていることに、思わず目を見はったためなのでした()。

……いや、その。……ヴェイパー作品らに点数をつけ、5点が満点だとして、かの『チャック・パースンズ・エコジャムズ Vol. 1』や『フローラル・ショップ』らが、その5点だとしましょう。そして、もちろん『新しい日の誕生』も。
仮にそういう基準だとすればヴェイパーウェイヴの歴史上、満5点を獲得するようなアルバムは、せいぜい全10作ほどであろうと、私には思えます。

たとえば。私の尊敬してやまない《サンブリーチ》さんのレビューでも、《三つの太陽》と呼ばれる最高の評価を得ているアルバムは、12作のみです()。
いや、それは、2018年秋までのレコードではあるのですが。しかし、それから現在までに満点レベルのアルバムが何か、あったような気はしません。

とはいえ、仮に4点でも、かなりいい作品であることは間違いありません。それらの作品の存在は、私たちの幸福です。大いなる感謝と敬意で迎えましょう。
しかし。満5点の作品ともなれば、その登場がショッキングな《事件》に他ならず、かつまたヴェイパーウェイヴへの認識そのものを大きく変えてしまう──、そのくらいのものでなければならないでしょう。

そして?
いったいどれほどのものなのか──、という思いで私は、この3Dさんの新作『ミュージック:ヒア・トゥ・ステイ』に聞き入ったのですが。

3D BLAST: Pioneer (2015) - Bandcamp
3D BLAST: Pioneer (2015) - Bandcamp
3Dブラストさんの初期アルバムです。
サンブリーチによる評価は、3/6点です。

素早く結論から述べますと、私による評価で、このアルバムは4/5点です。かなりいい、ということです。
さらにかってな評価をつけ加えると、いままで私の中で3Dブラストさんは、よくて3点レベルのフューチャーファンク(以下、F・F)のプロデューサーでした。それがF・F色の薄まりのせいもあって、4点へのレベルアップを遂げた、とも言えます。

従来までの3DさんのF・F作品とは異なり、今アルバムのタッチは、《death's dynamic shroud.wmv》の傑作たちを思わせるところがあります()。
その《DDSW》をご紹介した記事で述べた、2〜3種類以上のサンプルソースを混ぜ込んでいくような、高度な構成。それが、そのことを思わせるのです。
あまり手間をかけていない感じのヴェイパー作品らが、近ごろ多い中で──それをクールだと思うところもありますが──、この点ははっきり傑出しています。

いっぽうで私が感じるのは、『ミュージック:ヒア・トゥ・ステイ』というこのアルバムに、〈元気がある〉、〈前向き風〉、いっそのこと〈エモい〉、とも言える特徴。
そういえば、そもそもアルバムのタイトルからして、みょうに肯定的ですよね!

が、正直なところ、どうでしょう……。《ヴェイパーウェイヴ》というものを私は、実にたちの悪い、無気力・退廃・シニシズムのきわまり、かとも考えています。
それは相対的には新しいですが、しかし老いさらばえ擦りきれた感性の分泌する、邪悪な音楽(もどき)です。

そして随所に1990年代的なクリシェが飛びかっている今作にも、そういうところが皆無ではありません。ゆえにヴェイパーです。けれど、何か前進でもしそうないきおいが、ふんいきにおいて支配的でしょう。

そしてユートピア地区のレビュアー氏が、〈文句なしにフル5点! 早くも本年のベストワン登場!〉とホットに感激がきわまってしまったのも、おそらく今作のヤングなフィーリングの肯定ムードにライドオンさせられた結果、とは考えられます。
そして否定はできません、そうした受容の仕方を。

そしてこのような、それほど根拠もないような肯定ムードへの転換によってヴェイパーウェイヴも、現在の退勢から成功へのルートに戻るのでしょうか?

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
3D BLAST, an artist who claims to live in Detroit, Michigan, USA. It seems that he has been active since 2015. His name seems to be already widely known as a successful producer of future funk rather than Vaporwave.

And the latest album by 3D BLAST, is “Music: Here To Stay”. It's a release from the successful label business casual of future funk, but the content is getting closer to a full-fledged Vaporwave with the tone of f.f. fading. Yes, I like it.

There are two distinctive features of this album.
First of all, it is a complex and advanced sampling structure reminiscent of the works of death's dynamic shroud.wmv. great!
And the other is the existence of some strange positive mood, the creation of a mysteriously vital vibrant atmosphere.

And I can't say that there isn't something I can't quite sympathize with about the latter feature. However, it can be admitted that it is a very good work!

ウータン・da・ウータン: さいごに1996年のくちづけを。 (2021) - セカイ系の終わり と 美少女ワンダーランド

たったいま現在のフレッシュでホットな話題であるらしい、何か劇場版のアニメーション大作があります。

20世紀の末から実に長く続いているシリーズの、リメイク版の完結編であるようなお話です。

その、テーマ曲かイメージソングのようなものが、たぶんヴェイパーウェイヴかのようなトラックへと、エディットされています。

そしてまあ、これも例のあの、《スラッシュウェイヴ》なのではなかろうか、という気もします()。そのジャンルとしてはわりあいに短く、2分半くらいの楽曲に仕上がっていますが。

Edited to Slushwave of Shin-Evangelion anime movie theme song or something you can enjoy so much the best vaporous sound, yeah!

いやその。たまには私もトレンドに即し、時流に便乗して、大いなるバズりをキメたいと、まったく思わないではありませんでした。

ともあれ。このきわめて長く続いたアニメーション・シリーズの完結を私は、このトラックによって、セレブレイトしたいと思います。

あ、それと、もうひとつ。すでに2ヶ月ほど前らしいですが、SoundCloudにポストしていた別のトラックの宣伝を、ここにおいて。
こちらはおそらく、潜水艦のミッションで水っぽく薄まった愛を探索し、そして深海のタコのロックンロールを聞くようなそれでしょう。

Babes on a submarine mission for you!
For there's a mystery under the sea, under a water, come share it...!

これら2つのトラック、その題材らにつながりがなくはないので、そんなには強引な抱き合わせにはなっていないはず、という思いで心がいっぱいです。

V.A.: Solarpunk:A possible Future (2021) - 心からなる 誠実さをきわめた偽善

聖ペテルスブルクを根拠とするという《global pattern》は、ヴェイパーウェイヴの実績あるレーベルです()。
主に彼らは、スラッシュウェイヴのリリースにおいて、私に強い印象を残してきました()。例となるアーティストらの名を挙げるなら、たとえば《from tokyo to honolulu》、また《desert sand feels warm at night》など。

そして、“Solarpunk: A possible Future”は、そのグローバル・パターンによる、今2021年3月リリースのオムニバス・アルバムです。全17曲・約89分を収録している、と言えます。
そして。これは単なる寄せ集めではなく、その全体が、《ソーラーパンク》という新しいアチチュード──さもなくばフィロソフィー、美学──、それをプロパガンダしようとするもののようです。

ではその《ソーラーパンク》とは、どういう考えや感じ方なのでしょうか? 彼ら自身の説明によりますと──。

ソーラーパンクは(中略)、より良い世界にどうやってそこにたどり着くことができるかというビジョンです。 私たちの生き方を変え、違った考え方をし、私たち自身と自然より上のあらゆる種類の支配を廃止することは私たちの力です(後略)。

……いや。私なんかは、どうも少々奇妙な性分ですので……。
この宣言につき、〈あなた方は、HKE氏らの唱導する“ドリームパンク”に対抗する商標を手に入れようとしているのでは?〉、みたいな気も少し、いたします()。しかし、それはいいでしょう。

それはそうとして。このアルバムの全体の印象は、〈フェイク臭ふんぷんたるニューエイジ系チルアウト音楽である〉、ということです。その印象をもたらす全体の統一感は、実に大したものです。

そして言うまでもなく、〈フェイク臭ふんぷん〉ということは、批判ではありません。むしろヴェイパーウェイヴであるとすれば、フェイクでなくてはなりません。まじめにシリアスなニューエイジ音楽などをやられては、逆にめいわく千万です。

Second∞Sight: Pillars of Creation (202o) - Bandcamp
Second∞Sight: Pillars of Creation (2020) - Bandcamp
これがまたインチキくさいニューエイジ
チルアウト音楽で……思わずなごみます。

それと、もうひとつ印象的なことは。今アルバム中には、《盗用音楽》としてろこつなトラックがほとんどない、ということです()。
まあ、実のところはサンプリングなのかも知れませんが。しかし私たちに親しい、あのろこつで露悪的なサンプルのタレ流しみたいな挙動が、目だってはおりません。

──で、さて。こういう傾向が現在、ヴェイパーというムーヴメントの中で、どれほどにヴィヴィッドであり、どれほどにインパクトのあるものなのでしょうか?

どちらかといえばヴェイパーウェイヴは、ネガティヴ(もしくは批判的)でシニカルでアナーキーな音楽(もどき)として、現在まで時間を重ねてきました。
そうであるがゆえに、これが現在におけるパンクロックであると言えるでしょう。

それに対して、この《ソーラーパンク》はいかがでしょうか。聞くことの愉しみの多さとはまた別に、少し考えさせられるところがあります。

なお、今アルバムのさいごのトラックは、前記事でご紹介した《Second∞Sight》さんによる、13分を超える大曲です()。これが実はもっとも《盗用音楽》くさく、けっきょくはいつも通りなのか、のような気もしてしまいますが!

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
global pattern, which seems to be based in St. Petersburg, is a proven label of Vaporwave. Mostly they have left a strong impression on me with the releases of Slushwave.
And “Solarpunk: A possible Future” is an omnibus album released in March 2021 by global pattern. Contains 17 songs and about 89 minutes.
And. It's not just a jumble, it's all about trying to propaganda a new attitude called Solarpunk.

But that concept is another topic. The overall impression of this album is that it is a new age chill-out music with much of fake odor. The overall sense of unity that gives that impression is really great.

And, needless to say, "fake odor shit" is not a criticism. Rather, if it is Vaporwave, it must be fake.

And another impressive thing. It means that there is no sloppy track in the album as “Plunderphonics”.
Well, they may actually be samplings. However, the behavior that is familiar to us, such as the sloppy and vulgar samples, are not noticeable.

So will our Vaporwave possibly cease to be a shameless music thief and become a serious and positive music movement? No way?