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Savoy Brown: Ain't Done Yet (2020) - 少年老いやすく、ブルースは…

《Savoy Brown》──サヴォイ・ブラウンは、イギリス出身のブルースロック・バンドです()。1960年代なかばに始動、そして現在なお精力的に活動中です()。

あ、いや。すみませんけれど、このあたりから、おじさんの古ロックトークが始まってしまうんですが……。
しかし。私にしたところが、このバンドのことは、ほとんど忘れてたんですよね!

ところが、2019年。海外のレビューサイトで、もうサヴォイ・ブラウンの何十枚めになるのか不明なニューアルバム、“City Night”、それが話題になっていて。
〈おいおい、まだやってたのかよ……〉と思いながらも一聴したところ、初期の彼らとはぜんぜん違う、新しみと深みを感じたのでした。意外にも!

むかし、幼少時代にこういうのが好きでして。初期フリートウッド・マックあたりを頂点とする、60年代末の英ブルースロックのことですけれど。
そのころにサヴォイの初期盤らをも掘り出し、少し聞いていましたが。〈なんかカッコつけのふんいきが、濃いな……〉くらいの印象しか、持ちませんでした。

で、その私の感じたカッコつけの犯人が、サヴォイのリーダーであるキム・シモンズさんです。というか、最初期をのぞいてサヴォイ・ブラウンは、実質的にキムさんのソロ・プロジェクトだそうです。

しかしそのキムさんも、1947年生ということなので、いまは白髪のおじいさん。もはやカッコなどつけようがなくなったところで、スタイルにとらわれぬ《ブルース》の深みに、彼の手が届きはじめたのでしょうか。

そして『シティ・ナイツ』を追って2020年に出たのが、サヴォイのもっかの最新アルバム、“Ain't Done Yet”です。その冒頭のトラックが一時期のルー・リードさんみたいな粗暴なセンチメントをはらんだもので、〈あ、いや、これは〉、と私を焦らせました。

終わっていない、まだやりつくしてはいない……。その想いと生命の灯がつづく限り、私たちのキム・シモンズさんは、この暗く熱いブルースの──享楽と哀しみを、掘り下げつづけてくれるのかと信じます。

ところで? ここから余談になりますが。

いまにして思えば、〈ブルース〉にしても、かわいい白人の坊やたちの演奏するブルース・“ロック”なんてものを、むかしよくまあ聞いてたものだ……と、実にふしぎな気がするんですよね!
私なんかもいい年齢になって、やっとロバート・ジョンソンさん(以下、R・J)とかのすごみが、少し分かってきて()。すると往時のブルース・“ロック”なんてものは、ごっこ遊び〉の類だった、としか思えない感じです。

つまり、クリームさんによる“Crossroad”、またはローリング・ストーンズさんによる“Love in Vain”だとか……。いずれもR・Jの代表曲のカバーですけれど、そういったものたちが。

しかし。その〈ごっこ遊び〉である(であった)ところに、その薄っぺらさに──。逆に、それらのポピュラリティの可能性がある(あった)のでしょう。

だいたい《ブルース》というものは、ポップ音楽なのでしょうか。そうとも言いきれないところがありそう……と、思いますが。それをはっきりポップにしたのが、ブルース・“ロック”だったのでしょう。

ここでまた少し、お話が変わって……。まんがなんですが、平本アキラ先生による俺と悪魔のブルーズという、未完の長編作品があります(2004〜)。
これは、世に出る前の時期のR・Jを、多彩な空想を混じえつつ描こうとしているお話──であろうかと。

そして、その単行本らの解説の執筆者たちが、きわめて豪華なのです。永井“ホトケ”隆、鮎川誠、吾妻光良仲井戸麗市……という、ニホンのブルース・“ロック”系の大物であるような各氏らが、それぞれ熱筆をふるっています。とくに永井さんは、このまんが自体の監修をも兼任です。

で、その各氏らが解説の文中、R・Jに対し最大級の敬意を示そうとしているのは、とてもいいとしまして。
ただし、では、それならクリームさんやストーンズさんらは《何》であるのか?……というところに、ことばを濁し気味な感じを受けたんですよね。ひねくれ者の私としては。

生ギター1本だけをパートナーとして全米各地を地味に流し歩き、そして野たれ死に同然の奇妙な最期をとげたR・J──彼が示したものが《ブルース》の真髄だったならば、それをポップ化しビジネス化したブルース・“ロック”らは、何なのでしょう。戯画、と言いきっていいのでしょうか。

そうではなくて、何かの発展、なのでしょうか。それをはっきりと言いきれるのは、あのレッド・ツェッペリン“Lemon Song”(1970)くらいでしょうか。
これは、〈R・Jの楽曲ふたつを混ぜてみた!〉みたいなトラックですが、実に意図的な《アプロプリエーション》です。言うなれば、ポストモダン的です。ブルース・“ロック”ではありながら、その構えのレベルが、二段も三段も違います。

で、お話を戻しまして。

サヴォイ・ブラウンというバンドの全盛期は、遠く1968〜71年あたりと見込まれて。それから、すでに50年……! 地味に世界各地をずっと流し歩いてきた末に、いまキムさんの音楽に宿っている奇妙なすごみ、ということを私は感じたんですよね。

そしてさいご、少しは新しいことも書いておきますと。Bandcampから出ているブルースのオムニバス・アルバムの2019年版に、若手ブルース・ウーマンのサマンサ・フィッシュさんが、サヴォイとあわせて登場しているのが、興味深いところです()。この人、カッコいいですね。

ですが、だいたい実のところ私は現在、ブルースなんてそんなには聞きたくないんです(!)。テンションが下がるので。ここまで長々と、そういう話をしてきて何ですけれど。でも……。