Vaporwaveのなすべきタスクらのひとつ、資本主義ポップ産業の愚劣で下劣なビズネスらのものまね、その痴態らの擬態。…しかしそうした擬態が、いつしかホンモノになってしまわない、と、限った話でもない。
さて。ご紹介するアルバム「Future Otaku: Future Idols」(2018)の存在を知ったのは、ふとRedditを見に行ったら、これの出元レーベル《Neo Motel》による宣伝スレが立っていたから。で、そこにいわく(☆)。
Xマスセール! カセット版の少量再リリース! ぜひこの機会をお見逃しなく! 超限定版につき、お・は・や・め・にィ〜!!
これに対して現状では1コだけレスがついており、それはモデレーション・システムからの、「あんたの投稿はスパムくさい」という警告なのだった。
…ここでもう話が終わってもよさそうな感じだが、しかし自分は心の弱い人間なので、カバーアートらの中で《ラムちゃん》が示している媚態につられ、ついついリンク先を見に行ってみた。しかも、音さえ聞いてしまったのだった。
すると? 「フューチャーオタクのフューチャーアイドル」って題名からして、どうせアニメソングとか使ったフューチャーファンク(ディスコファンクもどきのヴェイパー)なんだろうな…という当方の浅はかなる先入観が、いっさい裏切られない。いや、作中の素材らが厳密にアニメの唄なのかどうかは知らないし、かつどうでもいい、とすれば。
あまりていどの高い制作物だという気はしないのだが、でもこういうのキライじゃないねえ…と、思ってしまうのだった。われわれの幻影の中のアキハバラで、こういう音楽がそこら中の店先から流れ、ショーウィンドーにはこういうカセットがずらりと陳列され、そして人々を見下ろす巨大スクリーンの中ではラムちゃんやセーラームーンらが永遠の輪舞を繰り広げ、そして少年たちはそれらを見上げて思わずツバを呑む。それもひとつのユートピア…なのかな?
そういうシーンらをムリにでもリプレゼンテーションするものとして、この「Future Idols」は、そんなにはまずい創作でもないかも。必要以上の強い押しをカマシてこない、多少は抑制のあるところがよい、ような気がする。でもまあ、各トラック90秒くらいでまとめてくれたらもっとよかったかな、みたいな。
ところでさいしょの話に戻ると。ヴェイパーウェイヴがビッグ・エンタープライゼスのミミクリ(ものまね)でありパロディであるべきところ、それがほんものの単なるスモール・ビズネスになってしまわないだろうか、という問題。
自分の知るところ、カセットテープというのは根本的に高コストなメディア。ゆえに、利潤の追求には適していない。
ちょうどいま読んでいる本に、1990年代末にはCD1枚の工業的な原価が1ドル未満となり、それが15ドル以上の小売価格で売れまくるので、音楽資本家らの高笑いが止まりようもなく…てな話が出ていた(☆)。これらに対するアンチテーゼとして、ヴェイパーのカセットであるはず。
という、先達たちが作り上げたヴェイパーウェイヴの枠組みの中では、志のあまり高くないやからが小金の儲けを追求したとしても、たぶん大したことにはなりそうもない。しかしその「ヴェイパーの枠組み」が永続するものとも思えない──とくにその上層部が離脱していく動き──、そこらが。