エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Patricia Lalor: Sleep Talk (2020) - そのティーン歌手が忘却の甘みを密売するから

アイルランド出身の天才美少女シンガーソングライター、《パトリシア・ララー》。2006年生まれと伝えられるので、やたらと若い! 独特のやさしみと眠みのある歌声が印象的な、フォークよりのドリームポップ歌手だと言えそう()。

このララーさんは、2018年くらいからYouTubeに自作曲を投稿し始めて評判を呼び、ちょっと話題のシンガーになっているようなんだけど。
でもいまだ、《アルバム》のリリースがない。だからなのだろうか、Discogsや英語ウィキペらにも、このララーさんの項目はいまだない。調べにくい!

そういうところも今後変わっていくのかと思うが、しかしどうだろう? ミュージシャンであれば《アルバム》を出すべき、出したいはず──、みたいな先入観は、もはや古い人らの思い込みになり下がっているかも。

それにしても自分が強調しておきたいのは、パトちゃんの比較的さいきんの楽曲、“Sleep Talkのすばらしさについて。
例によって自分の大好きな、21世紀の催眠的な子守唄なのですばらしい。すでにわれらのパトちゃんは、アストラッド・ジルベルトクロディーヌ・ロンジェあたりから続く、ささやきと眠みのディーヴァ(歌姫)たちの系列にしっかり喰いこんでいると言える。

またこの曲“Sleep Talk”、その歌詞が、何ともモーローとした内容のようで。雑に要約すれば──。

あなたの夢をみた気がするけど、はっきりは憶えてなくて
そういえばあなたの名前も思い出せなくて
友だちと一緒にいた気もするけど誰だったんだろう?

──これではまるで、《ドリームパンク》の領域に入っているのでは?

恋人っぽい人がいたような気もするが、でもいなかったかも知れないし、まあどっちでもいい。ただ、モーローとしたあこがれだけが心を満たしている。
そしてそのいっぽうで、言われるところの《現実》とやらに対する軽視だか侮蔑だかが、実にはなはだしい。ここまで来られちゃ、ドリームの《パンク》だと言われてもフに落ちるってもんだ。

いや。パトリシア・ララーの音楽とヴェイパーウェイヴとの間には、何の関係もないっちゃないんだけど。
しかし何か奥底で、アチチュードのところで、眠みの甘さを追求しすぎているあたりで、通底しているものがないとも言えないかも。