エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

つぶやかれた、ヴェイパーウェイヴたち - 2021年・秋冬コレクション (1)

ヴェイパーウェイヴ/ドリームパンクのアルバムたち──ツイッターにてご紹介したものたちを、こちらにもログらせていただきます。
Vaporwave / Dreampunk albums - the ones we introduced on Twitter - also logged here.

─── index ───
binary deconstructed: また一日が過ぎる (2021) -
savant shadow: Camera Obscura (2021) -
明晰夢のキャッチャー: ジャーナル (2021) -
猫 シ Corp.: Good Morning America (2017) -
VA (とらっしゅ): PERPETUAL永久の (2021) -
c i t a d e l 寒い世界: subsuelos (2021) -
Zadig The Jasp: Everything Smoke (2021) -

binary deconstructed: また一日が過ぎる (2021)
1 song 26 min ≫≫≫≫≫
バイナリーさんのトラックらは常にピアノの響きがすばらしい
ヴェイパーにおける《ピアノの詩人》と、ひそかに私は尊称を捧げます
binary's tracks always have a great piano sound to them
I secretly give him the honorific title of being the "Piano Poet" of Vaporwave!
#Slushwave #Vaporwave

savant shadow: Camera Obscura (2021)
10 songs 50 min ≫≫≫≫≫
米ロード・アイランドの人というサヴァントさん
床屋ビート、ヴェイパーウェイヴのアーティスト
余韻、アンビエンスがとてもきれいです
Mr. savant from Rhode Island
Ambience, reverberation are very beautiful
#Barberbeats #Vaporwave

明晰夢のキャッチャー: ジャーナル (2021)
5 songs 145 min ≫≫≫≫≫
雲海の中を泳いでいる気分にさせられます
ときには明るく、ときには暗く
浮遊的なフィーリングのドリームトーンです
Makes you feel like you're swimming in a sea of clouds
Sometimes it's bright, sometimes dark
It is a #Dreamtone (#Vaporwave / #drone) with a floating feeling!

猫 シ Corp.: Good Morning America (2017)
17 songs 48 min ≫≫≫≫≫
たまたま久しぶりに耳にしたのですが…
あらためてヴェイパーウェイヴはすごい、こんなサウンドは他にない、と錯覚させられます
Just happen to listen to this…
And it makes me think that #Vaporwave is so much amazing!

VA (とらっしゅ): PERPETUAL永久の (2021)
17 songs 45 min ≫≫≫≫≫
かの『東方Project』のサウンドを利用しつつ、名の通ったヴェイパー作品&作者たちをパロディ的題材にしているという、手の込んだアルバムです
トータルとてもいいですが、とくにきわだったTr.14… 夢の商品たちの不可能な交換が、かいま見える1分間!
ヴェイパーウェイブ の モールソフト
It is an elaborate project that uses the sounds of "Touhou Project" and parodies well-known Vaporwave works & artists
Brilliant Tr. 14… A glimpse into the impossible exchange of dream products for a minute!
#Vaporwave #MallSoft

c i t a d e l 寒い世界: subsuelos (2021)
17 songs 27 min ≫≫≫≫≫
端的に言うとケアテイカーさん的な音楽を断章形式にシフトしているがトーンにふしぎな力強さがあるダークアンビエント/ヴェイパーです
To put it simply, it's a #Darkambient / #Vaporwave that shifts The Caretaker-like music to a fragmented form but with a mysterious strength in tone

Zadig The Jasp: Everything Smoke (2021)
23 songs 90 min ≫≫≫≫≫
モールソフトのフランス・ヘビー級チャンピオン、パリのヴェイパーウェイヴ・アーティスト、ザディグさん
チル、ファンキー&セクシーですばらしい
Mr. Zadig, the French Heavyweight Champion of Mallsoft, Vaporwave artist from Paris
Chill, funky & sexy and wonderful

ヴェイパーウェイヴ -に対する- ハイパーポップ - 『ユリイカ』2022年4月号・特集=hyperpop

《ハイパーポップ》と呼ばれる、今21世紀の音楽めいたサウンドらについて……。
まずは、《deko/ディーコ》さんをごフィーチャーした、約一年前の当家の記事を、ぜひご高覧ください()。
さっき自分でも読みかえしてみたのですが、これといって何か修正する必要性が、まったく感じられませんでしたから。

……と、そのようなふうに、私がこの《ハイポ》をあしらってから、約一年間が経過の現在です。
そして、先日。雑誌『ユリイカ』がハイポを特集すると、友である人がツイッターでご通報くださったので、私も臨場して一読に及びました。

さて。ここではっきりさせておくのは、あくまでも私はヴェイパーウェイヴの側、だということです。
もっとも新しい現在のポップであるヴェイパーに対し、ほぼ唯一〈向きあって〉いるジャンル──あまりきっちり定まった〈ジャンル〉ではないにしろ──が、ハイポとその周辺であるかと見て。ゆえの、〈敵情視察〉みたいなところです!

では次に、話題の雑誌『ユリイカ』2022年4月・hyperpop特集号……。これをざざっと一読のうえの、ざっとした印象を。

いく人かの寄稿者さんたちが、予想の通りに、次らをご指摘されています。

じっくりと遅いヴェイパーに対しての、せかせかとむだに速いハイポ……。どんよりと中音域しかなくしていくようなヴェイパーに対する、〈ドンシャリ〉っぽいハイポのギラギラさせた鳴り……。

そういう両者の現象的な対照性が、あまりにもさいしょから明らかなのですが。

ただ、もっとも意味をなすような差異だと私が見ているのは、根本のアチチュードのところ。
すなわち、過去の記事で述べましたように。《私》であるかのようなものを、滅却させていくか、逆に自分や身辺のものらを〈デコる〉ような感覚で《私》をねつ造していくか──。そこの態度の違いです。

追記・補足です……非人称の匿名性がクールだとされているヴェイパーに対しての、承認欲求・自己顕示のきわまり的なハイポ、とも言えてしまうでしょう。

で。実のところ、《私》がないとか薄いとかを承知しているがゆえ、〈デコる〉行為でそれをでっち上げ、顕示していくのです。
デコりを顕示することによってこそ、《私》をあるものとすることが可能だと想定されているのです、ハイポでは。異なるでしょうか?

これがつまり、SNS〈映え〉を顕示しなければ生きていることに意味がないというような、当世のヤングらの気質にフィットしている──というか、それそのものでしょう。
もっとはっきり言えば、《タトゥー/自傷行為を見せびらかしているようなものだ、と思うんですよね、ハイポは。

ラカンの理論》の正しいテーゼに、こうもあります。〈ひとつのシニフィアンは、他のシニフィアンらに対して、主体を代理=表象する〉、と。
そうして主体なるものを見失っている《自我》は、それをきざすようなシニフィアンを探しもとめ、それをおのれに刻みこもうとはします。
これをらんぼうに具体的にストレートに実践してしまうと、自らの身体にタトゥーか何かを、シニフィアンめいたものとして、ざくざくと刻みこむことになるわけです。刻まれた記号らが主体を代理=表象するだろうと、自我が想定(錯覚)するのです。

ところが。

そのタトゥー刻印であれ自傷行為であれ、思い込み自我の操作による、ただのお安い表面的デコレーションでしかありません。
ゆえに、ろくすっぽ〈主体を代理=表象〉していないので──そんなことまでをなすかも知れないような〈ひとつのシニフィアン〉を見出すことが、精神分析の核心であるようですが──。
ゆえに、タトゥー刻印であれ自傷行為であれ、〈これでよし〉というという地点には達しえず、果てしなく繰り返されつづけるのでしょう。

意識が、《それ》を知らず、知ろうとしないので、《行為》たちが反復されるのです。

──とはいえ、まあ。何にもならない自傷などはともかく、タトゥーを入れている人はどうかみたいなことを、いまどき強くは申しません。
それもまた、ひとつのライ・フスタ・イル(lie-fuster-ill)ではあるでしょう。

とはいえ。ハイポという音楽めいたサウンドの根底に、SNS上のバズりを求めて、イタさの寸前(あるいはその彼方)まで、ねつ造しあげた《私》を顕示していく──といった当代のヤングらのマインドがあるな、とは思ったもようです。
そこまでイタいことをしないヤングらにしても、しばしばそういう人らを面白がり、へたをするとヒーロー視などしているわけです。受容の土壌が、存在します。

ここですかさずヴェイパーの話にしますと、勃興期のそれをはぐくんでくれたシーンは、4chanRedditらのような〈ちゃんカルチャー〉、匿名掲示板だろうと言われます。たぶん、かなり、それはありそうです。
対して、いっぽうのハイポはインスタグラムやYouTube、あるいはTikTok的だと言えるのでしょう。ポスト・インターネット音楽の二大高峰として、きっちりと対照的に……。

では、さあ、目ざしましょう、インフルエンサーであることを!

あ、ところで。

私がこのハイポ特集号で読んだ、もっとも興味深く思えるお話は、レベッカ・ブラック》という女性シンガーめいたお方のストーリーです()。
山形一生さんによるご紹介を真に受けると、こういう物語です(p.101)。

2010年・末、別にプロ歌手でもない13歳のアメリカ人だったレベッカさんは、彼女が歌っている音楽ビデオの制作を、ARKという企業に依頼。おそらくは、〈学生時代のメモリー作り〉くらいの意図で。その代価の4千ドルは、母親が負担。
そこでARKは、楽曲「Friday/フライデー」とそのビデオを制作、レベッカさんは歌ってビデオにご出演()。
そしてなぜなのか、これが2011年3月、YouTube上でバズりにバズり。いま現在までには、160,598,796回もの視聴数をマークです! イェイッ

ところが……どういう意味での話題性だったのでしょう? 〈こんなひでェ楽曲と唄はねェな! 恥知らずか!〉くらいにそこら中でディスられまくり……。ようは、歴史的とさえ言えるまでの大炎上。そしてレベッカさんは、深く傷心。


委細ははぶいて、そのちょうど10年後の、2021年。新たにレベッカさんが発表なされたのが、うわさの楽曲「フライデー」のリミックス版の動画でした。
それが、まさしくハイポであるような音と映像になっているわけです()。

という事象を、私が見ると。

〈じっさいイタくはあるな……〉と思えるオリジナルの「フライデー」が、デコりの限りをつくしたイタさへと、華麗なる変容をとげています。イタいところはどうしようもないが、それがスタイルとしてのイタさにまで、《昇華》か何かがなされているのでしょうか。
あるいはデコりの徹底により、〈装甲〉が施されているところのイタさであるので、ご本人的にはあまりイタくもない感じになっているのでしょうか?

また、その同じ事象を見て、山形一生さんは、こう述べておられます(p.103)。

hyperpopは彼ら個人の問題を自己決定的に判断していく勇敢さや、過去に受けた傷を自己言及的な要素を持って自ら癒していく行為を肯定的に語ることができるものとしてムーブメントを生み出してきたのかもしれない。

……あ、並べてみると、私がずいぶん冷たい人みたいですね! まあそうですが。

ここははっきり正直に言うべきでしょうけれど、ここにいる私が愉しいと感じたら、それがいいわけです。
とうぜん私というモドキにしたところが、〈主体を代理=表象〉するようなシニフィアンみたいなものを、探しもとめつづけているようなのです。私ひとりだけの、それを。

そしてそのそういうシニフィアンが、まんがいち見つかってしまえば、たぶんカスみたいなみすぼらしいものであろうことを、私どもは予期しています。

で、そういうところで。

古いテレビのCMやお天気音楽などの、どうしようもなく凡俗なジャンク音源たち──、そこらに何か、きわめて虚しいが決定的なものがありそうとして、それらを漁りつづけるヴェイパーウェイヴ。そこに私は、飾りたてない誠実さと、かつ探求としてのすじのよさを、なぜかずっと感じつづけています。

本質的なのは〔、意味のある解釈よりも〕、主体が、そのような意味作用の彼方で、どのようなシニフィアン――“ノン・センス”な、“還元不可能”な、“外傷”的なシニフィアン――に、自分が主体として従属しているか、を知ることである。
ジャック・ラカンセミネールXI: 精神分析の四基本概念』)

あ、それでは、さいごに。

──予想もされた通り、この『ユリイカ』のハイポ特集号には、ものすごく多くの関連するアーティスト、楽曲ら、ジャンルなどが紹介されています。
拝読しながらそれらサウンドたちの多くを、自分の耳で鑑賞いたしました。

そしてそれらの中で、もっとも私がすばらしいと思ったのは、イングランド《Andy Stott/アンディ・シュトゥット》さんによる楽曲らです()。初めて知ったのですが、これはとてもいい! 皆さまにも、ぜひおすすめです!!

ところが……。このシュトゥットさんによる音楽は、実のところ、まったくもってハイポではない、と思われます。

では、何かといえば? まあその陰気なチルアウトとダブテクノ、その両極の間の、どこかにあるようなもの──くらいに、それは言えそうです。
まずは私どもの大好物である、モヤ〜リとしたサウンド空間とダウン気味のテンポ。そしてそこに紛れこんでいく、せん妄的&夢遊病的な女性ボーカル。ミステリアスでエロチックで、ほんとうにこころよいっ!

日ごろ私どもが親しんでいるスタイルやフィーリングでいうと、《ドリームパンク》──おおむね、そのものだとも言えます。けれども異なるシーンの人なので、そのレッテルを貼るのは控えましょう。

……ああ……いやその、です。このハイポの特集号に、それとやや関連ありげなジャンルとして、《Deconstructed Club》というものがあると、灰街令さんが書いておられだったのです(p.220)。
その《デコンストラクテッド・クラブ》というものを、まったく知らなくてびっくりしたので、すなおな私は調べました()。
するとそのデコン・クラブ系の名作のひとつとして、シュトゥットさんによるアルバム“Faith in Strangers”(2014)──これが某所に、ハイランクされていた、というわけなのです()。

ところが……。調べを進めていくと、このシュトゥットさんの音楽は、実はあまり、デコン系の代表でさえもない感じがっ!?
メインストリームめいたデコンらは、確かにハイポに近くもある、けばけばしさ&グリッチ感覚をそなえた音であるようなのです。いっぽうのシュトゥットさんの、しぶく粘りのあるサウンドとは、また違って。

ですけどしかし、ここにいる私が愉しいと感じたら、それがいいわけです。
かく、遠隔操作でシュトゥットさんとの出くわし(そこね)にまで導かれたことが、このハイポ特集号からの、最大の収穫です!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
This text is first of all a commentary on a special issue of the Japanese magazine "Eureka" on hyperpop.
I assume, by all means, that I am on the side of Vaporwave in my feelings.
And I think that hyperpop and its surroundings are almost the only genre that is "facing" the newest current pop, Vaporwave. Therefore, this is a kind of "enemy observation" activity ha ha.

So, well... My impression of hyperpop did not change much after reading this special issue.
I still feel that hyperpop music is a musical version of the young people who are driven to engage in bizarre and excessive activities in search of buzz on social networking sites, etc.

On the other hand, one of the fruits of the study I started with this material was the discovery of Andy Stott.
His music is a kind of melancholy Chill-out or Dub Techno, similar to Dreampunk on this side. The female vocals, which are lost in a hazy, desolate soundscape, create a strange eroticism. Very good!

And Stott's music, which could be described as such, is of course NOT hyperpop itself.
One of the magazine's authors mentioned the name of a little genre that seems to be somewhat related to hyperpop: "Deconstructed Club". That keyword was the starting point for the search that led to Stott's discovery.
This was the most informative part of this research for me!

私__バッグ: 視線 (Gaze) (2021) - 〈トランキル〉を求める心、そして…

《私__バッグ》──または《I__bags》を名のっている人は、ヴェイパーウェイヴ的ニュアンスのあるアンビエント音楽のアーティストです()。
そのお住まいは、米カリフォルニアのほうだと伝えられています。

Bandcampでのリリース歴を見る限り、この方の活動は、2021年の後半に集中しています。
そのわずか7ヶ月ほどの間に、6作の充実したアルバムが発表されています。

その作品たちは、いちようにドローン風のスタティックさが基調です。
そしてそこに、あるときにはヴェイパー的な甘苦さが、またあるときにはフォークトロニカ的な素朴さとさわやかさが、加味されています。

かつその、“すべて”について、作り込みの過剰感がない、いじりすぎずにいいものをサラッと提示している、という印象。
ゆえに、聞いていて疲れず、いい意味で存在感が薄い──。つまり正しく、《アンビエント》であるわけです()。

──それで、まあ。

いい感じだということは同じでも、私としたら、ヴェイパー特有の何か危なっかしいふんいきをチラッと匂わせている……そういうものに、とくに強くひかれたりして!
この記事の表題に出ている『視線 (Gaze)』、および『意識 (Consciousness)』、これらのアルバムらが、とくに“そういうもの”だと思います。

そういえば。アンビエントめいた音楽を語る決まり文句に、カーム(calm)であってトランキル(tranquil)──などと、よく申しまして。とてもべんりな用語ですから、私も利用いたしますが。
けれどもアンビエント・ヴェイパーみたいなものであれば、それらと不安(anxiety)との間の危険な綱わたりを、人知れずひそやかに制す──しようとしている、というニュアンスが欲しいですよね?

……というか、本来のイーノさんの元祖にして至高さをきわめた《アンビエント》たちは、まさしくそういうものでした()。
それをあとから便乗して出てきた疑似アンビエントらが、のっぺりした単調な〈ヒーリング・ミュージック〉みたいにしてしまったのでしょうか。

そして。ツイッター等でのお知らせによると、私__バッグさんは、この2022年初頭から活動休止の状態にあるとか()。
いろいろと事情があるようですが。しかし私の娯しみのために、その遠からぬ時期の活動再開を、切に願うのです!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
The person who calls himself 私__バッグ - or I__bags - is an Ambient music artist with Vaporwave nuances. He reportedly lives in California, USA.

According to his Bandcamp releases, his activity is concentrated in the second half of 2021. In that mere seven months or so, six substantial albums have been released.

The tone of these works is uniformly droning static.
And the music is sometimes sweet and bitter like Vaporwave, sometimes naive and breezy like folktronica.

The impression is that "everything" is not overdone, and that the good things are presented without too much fiddling.
In a good sense, it has little presence. In other words, it is Ambient.

For my part, I am particularly attracted to the fact that the works of 私__バッグ have a hint of the dangerous atmosphere peculiar to Vaporwave!
Therefore, I am particularly attracted to the albums 『視線 (Gaze)』 and 『意識 (Consciousness)』, which have such nuances deeply.

Les joyaux de la princesse: Aux volontaires croix de sang (2007) - プリンセス・チャレンジ、開始っ❣

《Les joyaux de la princesse》、レ・ジュワイヨ・ド・ラ・プランセス。フランス語だとすれば、〈姫さまの宝飾品たち〉と訳せるでしょう()。

そしてこのことばは、フランス人であるエリック・コノファルさん、彼独りによる音楽バンドの名前です。
……あるいは、でした
そのリリース歴は1989年に始まり、そして、2007年をもってとだえています。

このテクストの表題に出ているアルバム、“Aux volontaires croix de sang”が、2007年・発、彼の最新の公式リリースです。
その仏語タイトルの意味は、〈赤十字のボランティアたちへ〉……の感じ。全15曲・約61分を収録のもよう。

さて、以下では短く《ジュワイヨ》と、このバンドを呼びましょう。その属するジャンルは、たぶんダークアンビエントです。
……たぶん、というか、どう言いましょうか……。ダークアンビエントっぽい響きが、いちおう支配的であると、言えそうな気はするのですが。

それを仮に、中心としても──。
ジュワイヨのサウンドは、それの左側にハーシュ・ノイズ(!)や戦場めいた爆音ら、また右側には古いフランスの軍歌/シャンソン/演説などのさまざまな歴史的録音ら、といった要素たちを含んでいます。

それらあわせての印象の強さは、とても否定などできませんが。だがいったい、これはどういう音楽なのか?
半分くらいは私の想像でまとめれば、こういうことでしょうか。

ジュワイヨの音楽活動の根本には、ひとつのコンセプトがあります。
それはフランスの1940〜44年、ナチス・ドイツによる占領(レイプ)を悼み、惜しみつづけることです。

Les joyaux de la princesse: Live in Bruxelles (?) - YouTube - YouTube

それをコアとして、しめやかな葬儀や葬送の音楽であるような部分が、私たちにはダークアンビエントにも聞こえます。このパートらは主に、パイプオルガンやストリングス等による、スタティックな曲として鳴らされます。
なおかつ、それの以前の華やかなフランス文化、それをじゅうりんしたナチスの暴虐──。そういうものらを、引用したり描写したりしているパートらが、またあるのです。

どうしてエリックさんが、こういうことを考えついた──おそらくむしろその妄執にとりつかれた──のか、見当もつきません。
かつ、バンド名との関連も分かりません。姫さまなんてものがフランスにいた時代とは、とくに関係がないようですが?

いや……。で、さて。ここで話を、やや広げてしまいまして。
いまは過去である2010年あたり、その前後──。私はもっぱら、音楽は《アンビエント》の系統を漁っていました。

そして漁りつづける中で、いいものはよかったとして。
がしかしそうとは言いきれず、〈これは、何か、おかしいっ!?〉……と感じさせてくれたバンドらいくつかが、いま逆に印象的です。

そのような、(ダーク)アンビエントの周縁部で語られ、そしてアプリシエートされていた、実に奇妙なバンドたち。
そんな彼らの代表格を、三つ四つほど挙げておくと……。

Muslimgauze -
Oneohtrix Point Never -
The Caretaker - Leyland Kirby -

……そして、われらがジュワイヨというわけです。

これらの中で、イギリスのブリン・ジョーンズさんによるムスリムガウズ》は、1997年にジュワイヨとのスプリット盤をリリースしています。
国籍などは違いますが、妄執めいたコンセプトにとりつかれたダーク系同士、何か通じあうものがあったのでしょうか。

そして《ワンオートリックス》《ケアテイカー》は、現在では〈プロト・ヴェイパー〉とも見なされながら、私たちのヴェイパーウェイヴのシーンにおいても絶大なる尊敬を集めています。それは、よくご存じのことでしょう。
われらのジュワイヨにしたところが、その実にひどくローファイなパートらを聞けば、これまた〈プロト・ヴェイパー〉でないとは言えまい、との感じはあります。

いまにして(後づけで)思えば、こういうアンビエント周辺の奇妙な音らの洗礼を受けていたことが、私においてのヴェイパー受容の準備だったのだろうか、とも。

そして、つい数年前までは偉大だが地味だった感じの、ザ・ケアテイカー……(そのまたの名が、レイランド・カービィさん)。
そのいったい何が、かん違いされたのでしょうか? 2020年あたり、TikTokerらの中で〈ケアテイカー・チャレンジ〉という荒行の奇行が少しばかり流行して、彼の名声がうっかり高まってしまったそうです()。

この〈チャレンジ〉は、ケアさんの傑作であり超大作である、“Everywhere at the end of time”(2016)──アルバム全体の再生時間が6時間オーバー(!)──これを、がんばって聞きとおすというもの。
この試みが、もし成功したさいにはチャレンジャーの人格、そのステージが高みに上がるとか……。いやその逆に、破たんし崩壊してしまうとか……。そのようなことが、言われていたとか、いないとか……。

という話を聞いて私は、ちょっと考えたのですが。

方向性や内容らは異なりますが、いずれも実に奇妙なコンセプトにとりつかれている、ケアさんとジュワイヨ。ローファイさにあわせ、〈レトロさがきわまったサンプルらの多用〉──という共通点も、またあり。
そうしてケアさんがそのように評判を呼ぶのであれば、こちらのジュワイヨにもいわゆる〈ワンチャン〉が……今後ぜったいにない、とも限らなくないですか?

──では、です。

ちょうど、ジュワイヨのブートレグ盤である一大総集編(CDにして6枚組)で、その再生時間が5時間30分(!)というものが、つべに転がっています。
〈プリンセス・チャレンジ〉とでも銘うって、これに対するチャレンジが、これからちょっと流行ったりはしませんか?

……まあ、しないでしょうね! しかし、希望は棄てません。

Les joyaux de la princesse: Aux morts de la guerre (2003) - YouTube
Les joyaux de la princesse: Aux morts de la guerre (2003) - YouTube
これがうわさの5時間オーバー総集編ブート

で、あ、そういえば。たったいま〈ブート盤〉ということばが出たので、ふと思い出しましたが。
ジュワイヨによる作品たちのリリース形態は、実に独特なものだったようです。

──彼のアルバムやEPたちは、ビニール盤であれCDであれ、その“すべて”が、ごく少数プレスの超・限定盤。それぞれ作りが凝っていて、ポストカード等の添付物らも、あわせて多数で多様。
と、マイナー系レア盤の収集マニアたちの好き心を、くすぐってやまないものだったようなのです。

さらに、再発のさいにもあれこれ、構成を変えてくるので。よって、同じとも言えず違うとも言えないようなものたちが、実にささやかにはんらんしているもよう。

そんなふうに、“すべて”がレアすぎるので、よくないですけどブート盤などが、ついつい出てしまっているのでしょうか。

ですが、いっぽう。ジュワイヨについて、公式のストリーミングというものは、ぜんぜんないようです。たぶん、ありません何も。
あったほうが、それはいいようにも思えます。ジュワイヨに並んだアンビエント周辺の、変わり種たち──さきに名らを挙げたご三者──いずれも、Bandcamp等に出ているわけで。

しかし。今後の名声の高まりやビジネスの隆盛などを、エリックさんご本人が望んでいるのかどうか、それは分かりません。
粘りづよい創作の継続によって、妄執のすべてをジュワイヨとして吐きだしつくし……。そして現在は、ただのエリックさんしか、存在しないのかも知れません。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
Les joyaux de la princesse is an extremely unique French dark ambient band. Its member is one Eric Konofal.
Its history of activity began in 1989, and has been interrupted since 2007.

Joyaux's music cannot really be described as dark ambient.
Such a sound dominates, however... On the one hand, there is harsh noise, and on the other hand, there are elements of old military songs, chansons, and historical recordings.

What is this all about? Perhaps it is something like this?

At the root of Joyaux's musical activities, there is a concept.
It is to continue to mourn and regret the occupation (rape) of France by Nazi Germany in 1940-44.

With that as its core, the music of a sombre funeral sounds can be heard by us as dark ambient.
The music is also a reflection of the glamorous French culture that preceded it, and of the Nazi tyranny that raped it. There are also parts that quote and describe these things.

I have no idea how Eric came up with this, or perhaps he was rather obsessed with it.
But I continue to be fascinated by the strength of his obsession and his will to continue mourning.

luxury elite: GLAMJAMZ 3.0 (2022) - あなたが望む悦び と 《クラス感》

まさに、エリート的な……! ヴェイパーウェイヴ草創期からのトップアーティストである、《ラグジャリー・エリート》さん()。
この人については、すでに皆さんもよくご存じだろうとしまして()。

そして、ただいまご紹介しますのは、この2022年3月のオンライン・フェスティバル〈Vaporshave〉で公開されたビデオ作品、“GLAMJAMZ 3.0”です。

約30分間。この作品は、ご本人が、“GLAMJAMZ”と名づけているシリーズのアップデート版だそうですが……。
しかし、そんなことは知っても知らなくてもエンジョイできなくては、なりません。ともあれ、その現象的なありさまを、少しご説明。

まず音楽的には、110 BPMくらいの快適&ややアップなテンポで、少しレトロっぽく親しみある感じのファンク・ビートが、延々と続きます。
それらがいちじるしくローファイ化され、かつグリッチ処理されながら──。しかし、近ごろの英語で“Banger!”という声のかかりそうな、ノリの実によさ。

いっぽう映像のほうは、1990年代アメリカのテレビ映像らのカットアップめいたもの。主として宣伝CM、あわせてニュースやTVショッピングなど。
とちゅう、チラリとあの『乜サ彡・ス卜リー卜』みたいな絵が出ますけれど。これにしても、その当時やっていた関連ライブ興行の広告のようです。

そしてそうした映像たちもまた、実にVHS風がきわまったローレゾ、まったくもってローファイな見え方です。
ではありつつも、もとのところで──劣化してしまう前の向こう側に──高級感と美しみが、何かあるんですよね!

あわせてそれらが、《欲望》をあおり立てています。

もっと美しく、もっとヘルシーに。もっと速く早く、きもちよく……。
いまだけのお得な大セール。すぐに愉しみ、お支払いはあとで!
あの人に対して差をつけよう、〈もっと愛されるあなた〉になりましょう!!

いいかげんもう吐き気がするほど、しつように、これらを……。

luxury elite: GLAMJAMZ IRL (2014) - YouTube
luxury elite: GLAMJAMZ IRL (2014) - YouTube
グラムジャムズ・シリーズの旧版

──次のことは、私たちのフェイヴァリットなスタイル《シグナルウェイヴ》についても、また強く言えるのですが()。

もはや売ってもいないような過去の商品らのCMを、わざわざさらし上げる──。という実にことさらな所業が、メディアというメッセージらの根底を、それと私たちの《欲望》とのなれ合いからみ合いを、あらためてくっきりと照らしだします。

から廻りしたところで、《欲望》の姿がそこに浮きあがるのです。

《欲望》とは、必ず《他者の欲望》である──、とはジャック・ラカンさんの理論の正しいテーゼです。欲望してされることによって欲望は《欲望》として成りたち、そして欲望でありつづけます。

《クラス感》──という興味深いことばがありますが、そのクラス感の不足を想うので、私たちはそれを求めつづけます。
そしてその《クラス感》を成りたたしめる、〈クラス間〉のまなざし。それを今ビデオ作品は、うっかり可視化・可聴化してしまっているのでしょうか。

luxury elite: Live Set @ Late Night Lights Festival 2020 - YouTube
luxury elite: Live Set @ Late Night Lights Festival 2020 - YouTube
しっとり感あるレイトナイト系MIXです

これらは、ジャストなエンターテインメントです。そしてあなたの背景であり、かつまた環境です。
べつに注視や傾聴などを、求めていない感じなんですよね。すごくサウンドはいいとしても、いっぽうの映像面──。

もし、じっとこの画面を見ていなければならないとしたら、とんだ洗脳ビデオそのものです。魅惑とともに強い危険を感じ、つい目をチラチラそらしそう。

けれども、とぎれることはありません。

これらを背景として、あなたは生き、踊りつづけます。そしていつかそこに、何かスポットライトが当たるかも知れません!

……というか……。〈かもね?〉でも何でもなく《消費の王さま》たちは、いま現代のスターそのものです。
ユーチューバーにしろブロガーにしろ、あれやこれやの〈購入報告〉をなすのが、もっともイージーに人々の耳目を集めうるということ──、ご存じですよね?

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
More beautiful, healthier, richer... your satisfaction is here.
Prosperous Consumer Society! It's luxury elite.