エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

2020年下半期、かってに注目のWebコミック・ベスト5っ!! - トカゲ高校ヤンキー怪獣ぷらす……!?

今2020年もすでに7月となり、まったく〈光陰矢のごとし〉──、そんな決まり文句はともかくです。これからの下半期、自分がかってに注目していくWebまんがのベスト5選出&ミニレビューだよ!

さて今回の選出の条件は、掲載のスタートが2020年1月以降の、比較的フレッシュなタイトル。そして《ベスト5》と銘打っているが、実は6作品をリストアップしているぞ! これは一種の奇習だと考えていただきたい。
では、イッキま〜すっ!!(作品らの並びは掲載スタート日の順)

okamura「トカゲ爆発しろ」(ComicWalker等, 01/30〜)

現代ならぬ〈幻代〉のファンタジー的な世界、デミヒューマン亜人間)らが通う高校。そしてリザードマンである主人公《里佐土(りざど)》くんの奇妙な日常を描く、学園コメディ。
異世界といってもけっこう文明的な環境なので、野育ちバンカラな里佐土くんは、そこでちょっと浮き気味だ。がしかし、そのような彼のことを気にかけるエルフの美少女が……といったお話のよう。

なぜか自分はこの里佐土くんを好きだな〜と思ったんだけど、考えたら理由が分かった。彼がいにしえの学園ヒーロー、《赤城忠治》くんあたりにちょっと似てるからだと。粗野だが心根はやさしくて、そして異性にはまったく興味がなさそうなところ、等々。
いや〜、古いっスね。何かというと梶原一騎先生の話を持ち出すのが悪いクセだが、その名作「夕やけ番長」も現在はWebで無料閲覧できるので、ぜひよろしくねっ!(

ところで。このまんがのタイトルはリア充爆発しろ〉という慣用句のモジリだと考えられるが、しかし本編を自分が読んだ限りだと、里佐土くんはそんなにリア充くさくない。かつ、嫉妬羨望を禁じえぬほどイイ目を見てやがる、という気がしない。
ただ調べてみたら、作者が2年くらい前にPixivに投稿した今作品のプロトタイプがあり、そっちのほうが多少それっぽい()。オレとしては、現状がいいと思うのですがっ!

松岡圭祐/オオイシヒロト「高校事変」(ComicWalker等, 03/25〜)

小説家・松岡圭祐による原作本は、すでに第7巻まで出ている人気シリーズらしい。このまんが版「高校事変」は、とりあえずその第1巻のコミカライズ。
悪名高き大量殺人犯(死刑執行済み)を父に持つ、ミステリアスなヒロイン。その通う高校を首相が訪問、そこを狙って、高度に組織されたテロリスト集団が学園を襲撃。そして何かスゴい力を秘めているらしいヒロインちゃんが、知恵と能力でこの窮地を何とかするっ……!?

といったお話のようで、まず出だしのテンションとスピード感はすばらしい。そしてここからの解決策、およびヒロインおよび敵サイドのバックグラウンド──、そういうところに、スゲェとか説得力とかの連発を期待しちゃうっ。

奥嶋ひろまさ異世界ヤンキー八王子」(webアクション等, 03/27〜)

ニッポンのネット用語で《マネモブ》といえば、バイオレンス劇画の巨匠・猿渡哲也先生のファンらのこと。まあ自分なんかも、そのハシクレっぽいんだが。そんなマネモブの世界では《奥嶋モブ》と呼ばれている、猿渡スタジオ出身の奥嶋ひろまさ先生。
しかしモブ扱いも失礼で、同氏が現在すすめておられる連載は、「アシスタントアサシン」()、「同棲ヤンキー赤松セブン」(作画)、「入浴ヤンキース」()、そして今作──、つまり大した売れっ子かのごとくである。月刊ペースのが多いとはいえ、いまどき4本も連載しているまんが家なんて、他にほとんどいないのでは。

そして今作「異世界ヤンキー八王子」は、地震のはずみでファンタジー異世界に転移してしまったヤンキー少年たちの、RPGめいた冒険を描く。知る限り、奥嶋モブのまんがとしてはもっとも軽いお話で、じっさいお話のテンポの軽快・軽妙さがステキ。ぜひともここいらで大ブレイクし、モブ呼ばわりを廃絶に導いていただきたいところ!

井上淳哉「怪獣自衛隊」(くらげバンチ等, 05/25〜)

空想科学読本」シリーズ(1996〜)以降の流れ、とでも申しましょうか。SFっぽいまんがを描くにも現在は、考証面がヤケに重視される傾向が、ないとは言えない。
かつ、とにかくも怪獣や怪人らが出現しちゃったとして、では誰がどのように対処するのが適切で適法なのか?──そういう社会的な考証面をつついてくる読者らも、皆無だとは言えないだろう。

で、今作「怪獣自衛隊」は、後者のところをちみつにリアルに描こうとしているまんがであるもよう。プロローグにてJ隊の船がいきなり海中の《怪獣》に遭遇するが、しかし魚雷等で退治することが、できない。J隊が実弾を撃つなんて、まずは総理の命令でもなきゃダメ、みたいな風で。
そうしてお船は攻撃を喰らいあえなくチン没、また怪獣もどこかへと逐電。が、それから4年後、こんどはさらに本格的に怪獣が暴れ出し──といったところが、お話の現在。

そういえば? 映画「シン・ゴジラ」(2016)の封切り直後、当時のチャット仲間が観に行って、やたらコーフンし、そしてこんなことを述べていた。
ゴジラとかの出現にそなえ、J隊の装備はもっと強化しないと!〉
それがあながちジョークでもなさそうな言いっぷりだったので、オレにとっては大変だったんだ。〈小学生みたいなこと言うな!〉、というレスの実弾発射を抑止することが。
まさかそんな、ありえぬ事態を前提に軍拡をあおるなんてバカなお話にはならないとは思うけど。そんなもんじゃない、リアリティを深めた《いま》のエンターテインメントとしてどこまで行くかを、このまんがには期待してみたい。

古賀亮一ニニンがシノブ伝ぷらす」(コミックNewType, 06/26〜)

コガ先生のニニンがシノブ伝(2000-06)は著者の代表作でありかつ、いわゆる《ゼロ年代》という時期のギャグまんがをも代表するケッ作のひとつ。
単行本としては全4巻というコンパクトさもチャーミングであり、自分なんかもさんざんに読み返したものさ。

……そのシリーズが15年くらいぶりにリスタートしたのが、この「〜ぷらす」というわけで。そしてそのトーンがまったく変わっていないってのが、マジ恐ろしいところだが。
にしても、その第1話を見て印象的だったのは。たとえば〈ガラケースマホ〉に代表される、約15年分のテクノロジーのギャップをまず埋めておこう、という作劇の工夫なのだった。

そういえば? 近ごろ自分はいまさらに、SF映画の歴史的大ヒット作「インデペンデンス・デイ」(1996)をチラッと観たんだが。
そこで実にショッキングだったのは、開幕いきなり《黒電話》《ブラウン管テレビ》という、2大過去アイテムらのオンステージ。いやじっさいに過去の映画だけど、しかし映像がグレートにハイレゾなせいか、そういう部位らを除けばさほど過去的に見えない。その、ギャップに撃たれちまったんだ。

……で、そのインデペの20年後の続編「〜リサージェンス」(2016)は大コケであった、というのが一般的評価のもよう。まさか、前作からのテクノロジーのギャップをうまく処理できなかったせい、てなことはないだろうけど!
だがそのいっぽうのこちら、だいたい忍者のギャグまんがなんて、前シリーズの時代からアナクロのきわまりだし。これ以上アナクロになんかなりようがない、というところで新シノブ伝ゴリラパワー大ばくはつを切望ッ。

松本直也「怪獣8号」(少年ジャンプ+, 07/03〜)

現代ニホンに似ているがしかし、地震か台風の発生みたいな頻度で《怪獣》が出現、そして害をなす世界の物語。主人公はアンチ怪獣の防衛隊入りを志願していたがドロップアウト、そして現在は、怪獣の死体処理業に従事している32歳・独身男。
その彼がどういうわけか、小型の怪獣が口の中へ飛び込んだはずみに、ヒトの意識を持ったまま怪獣へと変身。ちなみにこのヒーローの名前はカフカ》くんなので、“変身”しちゃうことの必然性は大アリだ!

そしてその怪獣パワーで別の悪い怪獣を倒したので、ついお調子にのり、再び防衛隊入りの意欲を抱いた主人公。が、怪獣なのにそれオッケーなのか? かつ、防衛隊の女性エースである、かつてカフカくんと親密だった幼なじみ、彼女はどう動くっ……!?

というところで、現在の最新の第2話がおしまい。そしてこのたった2話までの公開により、今作「怪獣8号」はすでに、バズりにバズっている。いやほんとに。

いま見るとジャンプラのコメント欄への投稿がすでに2千件オーバー、そしてそのほとんどが大絶賛、というのがスゴい。まだ2話ほどの時点なら、コメ数は多くても4百件くらいが相場のようなので。
かつそれ以外にもネットには早くも、今作の感想や考察の記事らがあふれかえっているもよう。こんなにもクッキリした成功例を、近ごろWeb発のまんがで見たことがあっただろうか、という気さえしてくるんだ。

というわけで今作の前途は洋々だが、せっかくなんでオレからも感想をひとこと。

さっき「怪獣自衛隊」のところで述べたことの続きだが、怪獣の死体の後始末をいちどマジメに描写してみようってのが、20世紀にはなかったフレッシュな発想なのでは。
しかもそこには学術的な興味などがぜんぜん存在しないらしく、ただめんどうで実にウンザリ、だがしかし社会が求める必要なワークとして。

それと“少年”ジャンプ+の掲載作でありながら、ヒーローとヒロインがけっこうな年齢だということも目をひく。しかもヒーローったって《ヒーロー》じゃない、夢に破れたふつうの社会人だし。
いっぽう旧来のジャンプ系くさい少年像は、わき役のナマイキな小僧として登場。彼はこれからの防衛隊入りを目ざしていて、その夢を棄てるなんてありえねェと、いったんはカフカくんを蔑み、ナメた口を利きくさる。
ところがそのナマイキ少年も、カフカくんの一般人なりの漢気(おとこぎ)に触れて、意外とすんなり彼に懐いてしまう。そこへの流れがみょうにうまくて、SF要素以前のドラマのところで、読者をズズイと引き込んでいると考えられる。

なお。ちょっと調べたら作者の松本直也先生は、すでに歴15年くらいのベテランだが、しかしこれ以前には大ヒット作に恵まれなかったというお人のよう。つまり失敬かもだが作中のカフカくん的なところがあり、そしてその身についた苦労が、今作の人間描写の確かさに結実しているのだろうか。
……などと、そんな邪推はともかくも、このお話の続きは実にすなおに楽しみなんだよね。イェイッ。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

で、以上! ところでご紹介のまんがの中には、複数のサイトで公開されているものがあるので、画像らのキャプションのところにそれぞれリンク先を記している。
それではことし後半の、皆さまのハッピーまんがライフを祈りつつゥ〜。

梶原一騎「あしたのジョー」, 「巨人の星」 - “あなた”が選ぶ少年マンガ ベスト10

文春オンラインによる、「<アンケート>あなたが選ぶ『少年マンガ』ベスト1は?」という記事(2020年7月3日付)。〈40代(の読者)を中心に、482人が投票〉、というもの。
その記事を作成したサイドの意図は、いま現在のフレッシュな話題作「鬼滅の刃」が何位に喰いこむか、それを確認したかったもよう。そこは透けて見えている。なぜか文春は、とくに関係ない感じなのに「鬼滅」を推している。

だが、それはそうと集計結果のベスト10を見て、自分の印象に残ったこと。それは、何をいまさら梶原一騎の原作によるタイトルが、2コもランクインしているというチン事だった。
第6位にあしたのジョー(名義・高森朝雄、作画・ちばてつや)、第8位に巨人の星(作画・川崎のぼる)。ちなみに2作をランクインさせているのは、一騎先生のみ。

チン事と言っては失敬千万だけど、にしてもスゴいと思うんだよね。

このベスト10を概観してみると、まず週刊少年ジャンプの掲載作がその過半数を占め、6タイトル。他にサンデーの「名探偵コナン」が第5位、チャンピオンの「ドカベン」が第9位、そしてマガジンの梶原2作。

ここにはすでに、トキワ荘世代の偉大なまんが家たち、手塚・石ノ森・藤子F&A・赤塚、といった各氏が不在。かつ週ジャンの大ヒット作、「NARUTO」、「BLEACH」、「ジョジョの奇妙な冒険」らでさえランク外。──だってェのに、一騎劇画が2コも!

うちらニッポン人は、そこまでに意外と根強く梶原一騎作品らを愛しちゃっているのだろうか。
そしてその、表面的に指摘されてやまぬド根性や熱血だけでなく、根底に流れる苦いブルース・フィーリングやニヒリズムらを、しかと受けとめた上での評価なのだろうか。

まんがなんてのは《旬》のものであり、時代と世代を超えて読み継がれることは難しい。和式の《まんが》のカタチを創った手塚先生の名作群でさえ、すでにあわやのところ。
という認識の上で、この21世紀が到来しちまったとき、オレは考えたんだよね。……ここからもう、梶原劇画なんてェしろものは、忘却への一途なんだろうな、と。

しかしそれが、意外にそうでもなかったというのか。じゃあ、もうちょっと生きてみようかな──と、一部のオッサンら(?)を元気づける話題なのだった。

skyline divine: Daytime Television (2019) - 苦悶と陶酔の時代にママさんたちの憩い

《skyline divine》は、カンザスシティ在住を訴えるヴェイパーウェイヴ・クリエイター。2017年から活動中のもよう()。
そしてそのもっかの最新アルバム“Daytime Television”は、一種のシグナルウェイヴ作品。アメリカの奥さまたちが真っ昼間っからダラダラと眺め続けているテレビショーの延々と果てしない持続のふんいきを、音響的に再現しようとしたものと考えられる。

というわけなので、表面的に聞こえる音楽はテレビ的なもの。ライトなフュージョンや安っぽいポップの断片らが全21曲、約33分間。
サウンド的にはそんなに冒険していないほうで、あまり目立った加工がない。ただ全体が、いにしえの14インチのテレビのスピーカーから聞こえるような、レンジの狭いモヘ〜ッとした響き。これが耳に快いし、かつコンセプトに合ってるんだと思う。

ちなみにそのコンセプトは、スカイライン・ディヴァインの2018年作品“Tuesday at Noon”から引き続いているもの。初期のスカ・デヴァには少々方向性の定まらないところがあったが、しかしこの〈白昼の奥さま向けテレビショー〉というコンセプトに行き着いたおかげで、主婦層エトセトラにバカ受け……といったストーリーを描くことが可能っぽい。

等々と、オレなんかがヘボく説明するより、リリース元の《B O G U S // COLLECTIVE》による宣伝文がみょうにサエているので、これを引用して済ませたほうが?

スカイライン神からの新曲! 前回の大ヒット曲「火曜日の正午」をベースにした魅力的な続きであるスカイラインディバインは、1980年代と90年代の平均的な主婦の旋風に包まれたビューにさらにあなたを導きます。ありふれた現実から「デイタイムテレビ」の奥へと逃れよう! 楽しい!

(グーグル翻訳システムの出力)

イェイッ。〈1980年代と90年代の平均的な主婦の旋風〉みたいな世界にユートピアを見出すなんて、そんなおバカなことを、いったいヴェイパーウェイヴ以前の何ものに思いつく機会が存在しえただろうか。すごくない?

──ところでこのアルバム「デイタイムテレビ」のだいたい真ん中の10曲め、“Age of Agony & Ecstasy”、これがちょっと気になるトラック。楽曲っていうか、ほとんどは語りなんだが。
お調子のいいテーマ曲に導かれ、ゲストのコメンテーターらしき人がステージに登場。〈……いかがお考えですか?〉という質問に応え、こんなことを言っている風。

〈ご父母の皆さん、あなた方のお子さんたちは……ヤッピーとネオコンらのムーブメントが……無垢の時代……1970年代、セックス、ドラッグ&ロックンロール……私たちは理解……苦悶と陶酔の時代なのです……(聴衆は拍手喝采)〉

けっこうハッキリした話し方なのに、ろくすっぽ英語が聞き取れない自分にもどかしさを感じる。何かかんじんな話が出てるような気もするのに。

というわけで英語ができないせいで、この記事も尻切れトンボに終わってしまう。そしてわれわれは、永遠の現在を支え続ける白昼のテレビの音響に耳を休ませ続ける。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
skyline divine, a vaporwave creator in Kansas City. His 2019 work, "Daytime Television" is thought to have been an acoustic attempt to recreate the endless endurance of a television show that American wives have been staring at all day long. Let's keep listening to the sound of daytime TV that continues to support the eternal present.

yugiasha: おかあさん、水槽! (2019) - アクエリアムのガラス越し、あなたのスマイル

《yugiasha》を名のる人は、リトアニア在住であるというヴェイパーウェイヴ・クリエイター。この名は〈ユギアシャ〉って読ますのだろうか、2019年に3コのアルバムをBandcampに出している()。

いや〜、それがです。ぜんぜん違うことを調べていたら、なぜか彼のアルバムの「おかあさん、水槽!」というタイトルが、検索の画面に表示されちゃったんだよね。
で、〈これはいきなりタイトルからしてケッ作の予感!〉と直感したんで、いまこうして、ご紹介するハメになっている。また題名だけでなく、ありえない近未来のバスルーム(?)を描いたカバーアートも秀逸だし。

さてこの「水槽」は、13曲入りで約18分間と短い、断章形式のアルバム。ユギアシャさんの作品は、いままでぜんぶそう。
これについて、オレが前にも言ったところの、〈イマイチな楽曲でも2分間以下くらいの尺なら許されそう〉、というテーゼの自覚的実践──、彼にはそういう気味があるんだよね。

よく言えば初々しさを感じさせ、かつ押しつけがましさがない。だがそのいっぽう、〈遠慮しすぎなのでは?〉という気もする。いずれ出てくる新作で、もっと遠慮のないサウンドを聞かせてくれるかも知れない。

かつこの「水槽」は、モールソフト的なセンスを感じさせる作品()。

アルバム冒頭のトラック“old mirror”は、リバーブ効果でズッポリと湿った空間にオルゴール的な響きがたゆとう──というサウンドで、いわばモール系の典型。だがそれにしても、品位の高さが明らか。
それが切れ目なく次のトラックへ展開し、やがて〈スマイル〜、スマァ〜イル〜〉と連呼するR&Bか何かの断片が現れる。そこまでの流れが、実にみごと。

そうやってメドレー形式めいて、トラックらはスムースに続き、そして9曲めの“premium sunglasses”で、再びのピークが訪れる。何度聞いても、この9曲めは、そのたびに鮮烈な印象を与えてくれる。

というわけで、タイトルの面白さだけではない、サウンド面の実力も大いにありげなユギアシャさん。そのまたの新作登場を、楽しみにしちゃうわけだ。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
yugiasha, a vaporwave creator who lives in Lithuania. His 2019 "おかあさん、水槽! (Mom, Aquarium!)" is a fragmented album that gives a sense of Mallsoft feel.
The continuous smooth tracks are extremely comfortable. I can't wait for his new work to follow.

Hal Willner: Amarcord Nino Rota by V.A. (1981) - マンマ・ミーアのぬくもりへと還る《道》

ニーノ・ロータの映画音楽には、うちら人間のいちばん弱いところをワシづかみにしてくるような性格がある、ような気がする。
その弱いところって何なのかって、いま急に考えれば、根源的には《マンマ・ミーア》の温かみ、その暗示、ということは確かっぽい。あまり公言もしづらい話だけれど。

いっぽうすべての《母》たちは、何かわれわれの知らない秘密を隠している。われわれ誰もが《母》を愛してやまないわけだけど、しかしその母の、“すべて”を知っているものはいないはず。

そしてその《母》たちの抱えた秘密とは、何らかの《享楽》につながっているもの。委細を略して、ロータの音楽のおぼろげな──かつ確かに存在する官能性、みたいな要素もそこに根拠がありそう。

そんなわけで? ロータと言ったらフェリーニというわけだが、以前にオレは自分の母が、〈「道」って映画をむかし視たけど、すごくよくて……〉と述べるのを聞いたんだ。
だがしかし、いつどこでどう視たのか、その詳細な感想、そんなところへ話を拡げる気になれず、〈へえ〉とだけ言って済ませてしまった。──《母の秘密》に、あわや触れてしまいそうな予感がしたから。

《母の秘密》をわれわれは知らないし、また知るべきでもない。それは、ロータやフェリーニらを筆頭とする最高の芸術家たちが、その表現らの中で、おぼろげに暗示して済ますべきものなんだ。

……と、そんなマエセツもありつつ。

さて。ご紹介する「アマルコルド・ニーノ・ロータは、ジャズ系プレイヤーたちによるロータの名曲カバー集。その美しいカバーアートが、いきなりの完全勝利を宣言してるレベルの品。

タイトルに出ている「アマルコルド」だけでなく、「甘い生活」、「道」、「サテリコン」、等々からも選曲。とくにイイのが、カーラ・ブレイによる「8 1/2」、ビル・フリゼールによる「魂のジュリエッタ」、そのあたりだろうか。
実はカーラ姉さんの演奏って、あまりイイと思ったことがなかったが、でもこれはヘンなひねりがなくてよい。もと曲のメロディのすばらしさはすなおに活かしながら、細かいところでちょっとヤリたいことを演っている気配。

そこでカーラ姉に対抗し、こっちもやや細かいことを書くと。今アルバムのプロデューサーであるハル・ウィルナー氏が、なかなか興味深い人なんだ()。惜しくもこの方、今2020年の4月、Covid-19関連の疾患により没しているんだが……(追悼)。

放送関係か何かの地味な仕事をしていたウィルナーを、1981年、名プロデューサーとして一躍ブレイクさせたのが、このロータ名曲集なのだった。
続いて彼は似たような企画盤の、セロニアス・モンク名曲集(1984)、クルト・ワイル名曲集(1985)、チャーリー・ミンガス名曲集(1992)、等々々をプロデュース。そのいずれもが、高い評価を得る。

自分なんかも、ワイル名曲集だけは、ずいぶん前に聞いていた。なぜかというと、そこに収録された「セプテンバー・ソング」を唄っていたルー・リード、そのかなりアレな崇拝者だったから。
そしてそれが、ものスゴすばらしい名演・名唱だった。そこはよかったはずだ。

しかし? そんなファナティックならではの偏見ヒイキ目もあるだろうけど、〈このワイル名曲集……お祭りムードはけっこうだが、しかし冷静に聞いたら、ルーちゃん以外はゴミ寸前じゃね?〉と、やがて感じるにいたったことは否定できないんだよね。

つまり。あまり言いたくもないことだがウィルナーは、追って1990年代くらいからの、ゴミっぽく安っぽい《トリビュート盤》らの乱発──おチープな企画盤の新趣向──、そんなブームに先鞭をつけてしまったところもあるっぽい。

まあそんなことは関係なく(?)、追ってウィルナーはふつうのアルバムのプロデュースにも精を出し。とくにワイルから縁ができたルー・リード、その晩年のアルバムらの制作は、ひときわ目立った仕事。

そうして話を、ロータ大会に戻すと。このアルバムは出てすぐ廃盤か品切れとなり、ずいぶんの長年にわたって、幻の名盤扱いされていたもののよう。
けどそれが、Bandcampとそこに拠る人々のおかげで、全世界へと解放されて。そしてわれわれはこのすばらしい楽曲らを通じて、ロータを惜しみ、ウィルナーを悼むことが可能となっている。