エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

憂鬱鬱鬱: アトランティス号 (2016) - 転がる石が水中に落ちて付着させた水ゴケ

ヴェイプ!(ごあいさつ) さあ、Vaporwaveのお話だヨ!

さて前記事()でわれわれが傑作、もしくはケッ作と認定した「HENTAI KID の: Anime Strip Club 18+」(2016)。この人の作品は他にないのかと、調べてみたのだが…。
したらDiscogsの記載によると、この名義のバンドによるアルバムはこれ1作のみ。しかし、同じ制作者による別ユニットが、これだけもあるそうで!

― 《HENTAI KID の》である人の別名義一覧 ―
°º¤ø,¸ Drummer ¸,ø¤º°, ◟(✿•͈ᴗ•͈)◞, ALL-REGION BAND, M®Z, Maroplume, Milky Way Warrior, N®Z, VR®Z, प्रसारण, カイヤン〜, 憂鬱鬱鬱, 死者の他の世界

…ムダに多いし、ほとんど聞いたことがないし。しかも、読めないもしくは発音できないような文字らが、ぐさぐさと目に突き刺さる。

ちなみにVektroid(本名はラモーナ・何とかさん)がいままでに使った――使い棄ててきた――名義らはもっと多いようだが、しかしそれは立場が違うから、とも言える。ああいう名の売れている人が別名義でこっそり何か制作するのは、たぶん奥ゆかしさを感じさせるところもあり。が、無名なヤツが名前を次々に使い棄てていく、というのはどう?
そこで、「そんなだからいつまでも無名なんだ」、という見方はありそうだ。「転がる石にはコケもつかない」、とか何とか。だがしかし、「別に名を売ろうと思ってないし?」というアングラ精神も自分には分かる。

まあ近ごろ感じるのは、アングラ世界にもそれなりの格差ありということ。たとえばいま出た話、Vektroidやそれに近いランクのアーティストであれば、気まぐれに違う名前であれこれしていても、かってに人々がそれをフォローしてくれる。しかし、アングラ界のそのまた底辺ともなれば…?

また、いまわれわれが問題にしているアーティストの代表作みたいなアルバムら、そのYouTube動画の視聴回数が約3〜4千ほどとする。これでもけっこう健闘してる数字かな、と思うが…。
だがしかし、その横の方に見えている関連動画――《Windows96》、《VAPORER》、《luxury elite》あたりの代表作であるヴェイパー史上の名盤らは、約40万くらいもの視聴回数を誇る、と。こういう数字がいちいち見えてしまい、れきぜんたる格差をきっちり可視化してくれるのがインターネット(およびITっぽい世界)の厳しいところだ。
そして本来われらのヴェイパーウェイヴは、こうした格差と序列らを混ぜっ返していくべきものだし、じっさいそれを実践してきている(はず)。ところが、その世界にも格差と序列づけがそっと忍び込んできている、とは?

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

さて話を本題に戻し、いまわれわれが問題にしているアーティスト、《HENTAI KID の》という名を使って棄てた人。いろいろ調べてみたところ、彼のメインである芸名は《Maroplume》なのかという感触を得た。そこで以下この人をそのように呼ぶが、マロプリューム、と読むのだろうか。

そしてそのマロプリュームのいろいろな名義による作品らを、聞ける限りは聞いてみると、びっくりなことにまたいちいちスタイルが違う。ヘンタイキッドはHardvapourなのかと感じられたが、その他の場所ではMallsoftあり、Eccojamsあり、IDMっぽいのもあり、と。そしてIDMはちとあれだが、全般にそんなにひどい作品はない感じ。

そしてもっとも印象的だったのは、何とアンビエント風の作品である「憂鬱鬱鬱: アトランティス号」(2016)。深き海底の風景やふんいきを、じめじめと叙述したような60分間のアルバム。かってに題して「バーチャル沈没体験」、みたいな。

思いすごしかもだが、この作品には、ちょっとあの「2814: 新しい日の誕生」(2015)に対抗したようなところがある。2814の未来的で前向きなところを、暗さと深さとウツウツしさに向けて、そっくり裏返している。
またこの「アトランティス号」は、アンビエントと呼ぶには少々やさしみや善意に乏しいところで、インダストリアル系ドローン作品の「Nurse With Wound: Salt Marie Celeste」(2002)を思わせるところもある。そちらは、幽霊船みたいなあれとして知られる《メアリー・セレスト号》の漂流っぷりを叙景したらしい作品()。形式としてはアンビエント風だが、しかしオドシが効いていて怖いので、アンビエントとして機能しない。「アトランティス号」はそこまではいかないが、しかしちとそういうところもあるかと。

そして、この「憂鬱鬱鬱: アトランティス号」は、「2814: 新しい日の誕生」に対してもそんなにはひけをとっていない佳作である、みたいなことを自分は思ったけれど、しかしここまでの世間の見方は?
そもそもヴェイパーウェイヴなんて反逆のムーブメントなんだから本来《世間》など関係ない、ところがそんな領域にも世間的な見方が忍び込んできている、とは?

まあそういうことはまた別に考えるとして、こうしてここまでいろいろやってきたマロプリュームさんが、次は何をどうするのだろう、ということを自分は気にしつつ。それでは!