エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

ImCoPav: HENTAI MIXTAPE (2018), etc - ヘンタイウェイヴ到来、思わず目がしいたけに!? この波に乗り遅れる…なッッ!!

ImCoPav: HENTAI MIXTAPE (2018) - 貴方のFull Lengthの悦楽のために

先日の記事の題材「自決 9 6: Haha Technology」 (2017)について調べていたとき、その供給元レーベルである《Seikomart》のBandcampページでふと目についたアルバムが、この「ImCoPav: HENTAI MIXTAPE」(2018)。カバーアートの《目がハート》という表現が、ひとまず愉しいなと。
しかし聞いてみたら音楽自体は、いたってノーマルなFuturefunkおよびVaporhop。わりに音楽らしく作られており、かつみんなが大好きなダンスクラシックや和製シティポップ入りなので、ちょっと歓ばれそうな感じはある。だがとりわけヘンタイちっくでもないし、また作品の背後の邪悪な妄執妄念、といったものらも感じられない。

さてこの《目がハート》というまんが的表現、近年のエロHentaiアニメCG界で、ちょっと流行ってるみたいなんだけど。しかしその類縁に、《目がしいたけ》と呼ばれる表現がある、と聞いた時にはびっくりしてもんどり打った。どうすれば人間の目がシイタケになるのか、まったく想像がつかなくて。

《目がハート》部分図
《目がハート》部分図

いや、いや…違うのだ。これはシイタケを横から見た《ニョッキリ》という状態を想像してはいけなくて、瞳の中にプラス型のハイライトがある状態を、包丁で十文字に切れ目を入れたシイタケの傘に、見立てているのだとか。
…あ、なるほど。

しかしそう言われたら、何かそんな目をしたキャラクターが大むかしにもいた気がするなァ、確かうる星やつらのわき役で…。と思ったので調べてみたら、それは主人公あたるくんのライバルの面堂終太郎のライバルの妹、《水乃小路飛鳥》だった。わき役にもほどがあるっ! さすがにこの、《水乃小路》なんて名前は完全に忘れていた。

なあんて世間話に流してしまっているけれど、しかし「ImCoPav: HENTAI MIXTAPE」の内容がふつうでノーマルだという感想は、実はヘンかも知れない。一般の人が聞いたら、たぶんいろいろとおかしい。だがそれを「まあふつう」と感じてしまう自分を、いまやどうしようもない。
あとこの「HENTAI MIXTAPE」、紹介写真で見る限りカセット版の作りが秀逸で、これはショッピングと所有の悦びを感じさせてくれそう。かつHentaiイラストカードを同梱とかで、それもいろいろと使えそう(?)。そういうプロデュースの上手さは感じさせる、けれど。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

ところでそのアルバムの、Bandcampページの下のほうを見たら、そこにひっそりと打たれた《Hentaiwave》というタグが目についたのだ。…ヘンタイウェイヴ…。
…ヘンタイウェイヴ…イェイ! いま人知れず、そんな波がキテるのかッ!? 「音楽によるエロチシズムの表現」に興味があって困るオレちゃん的に、こいつぁ要チェキだぜェ〜〜!!

なんて盛り上がろうとしてみても、じっさいにBandcamp内でそのタグを打たれた物件は、実のところ今作を含めアルバムでは5点、アーティストで3組のみ、というさみしい現実は動かせない。まあBandcampの検索ってあまりアテにならないと思っているけれど、しかしこれに関してはこんなものかなと。

だがしかし何とか気を取り直して、残りのヘンタイ精鋭陣らをチェキしてみてみれば…!?

b l u e__ΔCID: ヘンタイ (2016) - アニメ声にてイカせてあげ奉るっ

ヘンタイ軍団の残党・その一、かなり名の通ったヴェイパークリエーターである《b l u e s c r e e n》と《ΔCID.rar》の合作ユニット《b l u e__ΔCID》によるアルバム「ヘンタイ」は、わりとイメージ通りで期待通りのヘンタイちっくなヴェイパーウェイヴ。作品のほぼ全編に、アニメ声の嬌声エロボイスが響き渡っていたりする、みたいな。
で、サウンド的にハードからソフトまで、バラエティと起伏がありバランスも悪くない。多少イキすぎているような個所もあるが、しかし安易な作りだとは感じられない。そしてアルバムのさいご、鬼畜エロゲー(アダルトゲーム)のしめやかなエンディングテーマみたいなピアノ曲により、全編がきれいに〆くくられる。

かつカバーアートも美麗であり、じっさいのところかなり売れているもよう(Bandcamp的には「サポーターが多数」ということ)。客観的なレビューだとしたら、以上で終わりだが。
だがしかしこのアルバムに、自分の心が動くところはほとんどなかった、とは申し上げねばならない。なぜなのだろう? 何かみょうに、ウェルメイドすぎている、ということなのか?

panty commander: hentaiwave (2017) - 新ジャンル《パンティウェイヴ》爆誕

パンティ・コマンダーさん
panty commander

そしてお次は、ボクらのHentaiヒーロー《パンティ・コマンダーさんのご登場だ! 在カリフォルニアを自称する変態仮面みたいなルックスの人で、パンティのパワーで地球の平和を守っている、とか何だとか。なお、Bandcampでヘンタイウェイヴのタグを打たれたアルバムらのうち、3点がこの人のお作品。

だがしかし《パンティ》っておっしゃるけど、確か英語では強制的に“panties”と複数形になるんじゃないの? これはいいの?
…などとツッコんでいる自分の英語力も貧困だし、またこの指揮官どのが、Hentaiムーブメントのホームである日本文化へのリスペクトで「パンティ」と言っている可能性もある。よって、あまりそこらは掘り下げないほうがよさそう。

とは言いながら、ここで思い出した話がある。谷川ニコ、「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」でおなじみのまんが家によるWebコミック「クズとメガネと文学少女(偽)」(2017)で…。
タイトルに出ている《文学少女(偽)》にひと目ぼれしたクズ野郎くん――いやそんなに言うほどクズじゃないと思うのだが――は、読書家(偽)である彼女の気をひくため、<基本ギャグ漫画と エロコメくらいしか 読まない>という無知文盲状態を脱却しようとし、彼なりの読書にはげみ始める。
で、つき当たった文学作品が、村上春樹ノルウェイの森(1987)。読んで彼は、その作者と作品に対し、深く激しい共感を覚え、その身をうち震わせる。

谷川ニコ「クズとメガネと文学少女(偽)」第102回「共感」より() ―
 村上春樹は パンツをパンティーと 書く人か……
 俺と同じだ……!!

だがしかし、自分というこっちの読者にしてみたら、<ギャグ漫画と エロコメくらいしか 読まない>)と言い切るクズ野郎くんの態度にこそ、心からの満腔(まんこう)の深い共感を覚えていたのだが…。いやまあそんなことはいい、パンティ・コマンダーさんの話に戻ろう!

さてパンティ指揮官によるヘンタイウェイヴのアルバムがBandcampには3点あると述べたが、とりあえず最新の、ずばり「hentaiwave」(2017)と題されたそれを聞いてみる。するとテクノポップ半分インダス半分の伴奏にのって、どこぞのオッサンが気持ちよさげに調子よくボーカルをとっている。
…いや、ウサンくさいオッサンなのはお互いさまだとしても、しかしヴェイパーウェイヴであるようには聞こえない。
どうやらこれは、《Synthwave》から派生したほうのヘンタイウェイヴだったようだ。じっさい今作には、Synthwaveのタグも併せて打たれているし。

ヴェイパーでないことをまあよしとするなら、このパンティさんのミニアルバム(5曲入り)、デキがそんなにひどくはない。さっき婉曲に述べたように冒頭曲の印象があまりよくないけれども、しかし3〜4曲めあたりはけっこういいと思う。
ただしおそらく、シンスウェイヴとしては、このサウンドはインダストリアルやEBM寄りにすぎる。あまり確信はないけどシンスウェイヴの世界では、もっときれいな音が好まれそう。であればいっそ、これはデジタルロックだ(!)、とでも言い張ったほうが、まだましなことになるかも。

…と、そのようなプロデュースのまずさゆえか、パンティ指揮官のBandcampにおけるサポーターはゼロ人しかいないようだ。かつ自分のごとき弱小レビュワーによる注目が彼の力になりそうな気もしなくて、まったく残念無念。

HENTAI KID の: Anime Strip Club 18+ (2016) - そして果てなき性の荒野へ

さいごにちょっとイレギュラーな出品、Hentaiwaveのタグは打たれていないが、しかしアーティスト名等の“すべて”がHentaiであるヴェイパーウェイヴ。いや実のところ今回とりあげた作品らの中で、ほんとうに自分のお気に入りだと言えるものは、谷川ニコ「クズメガ」と、そしていまご紹介する「HENTAI KID の: Anime Strip Club 18+」だけ。

これは6曲入り・約10分間の極小ミニアルバムで、全体的なスタイルはHardvapour(もしくはVaportrap)でありそう。別によくできてはいないけど、しかし起伏の激しい表現の中に、鬱ボツとした情念の深さと高まりを感じさせる。
そして激しさのあいまの憂愁の刻(とき)、Vaporhop「アニメ猫」にフィーチャーされたピアノの音が、みょうにきれいで心を撃つ。…たった1分間の曲だけど! そのように、これらの楽曲たちがあまりにも断片的であることが、逆にこちらの脳裡に、隠されていそうな大きな全体像を描かせるのかも。

そういうわけだから、「このヘンタイキッド、いいな。もっと他の作品ないのかな」と思ってちょっと追求したら、いや意外にヘンなもの――隠された奇妙な全体像の一部――が出てきてしまったんだけど。
だがしかしこの記事があまりに長くなっているので、その続きの話は近く別の機会に…()。それではまた、ヴェイプ!(ごあいさつ)