エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Prius Missile: Do You Happy? (2020) - ゼラチンから飛び出る汁を浴びる

Prius Missile》──プリウスミサイルは、東京で活動しているヒップホップのバンドです。モトクロス用のゴーグルやヘルメットを装着した、若い男性の2人組のようです。2020年12月に、2作のEPらを発表しています()。

ではありますが、彼らの音楽を《ヒップホップ》だと言いきっていいのかどうか、ずっと私は考えていました。1ヶ月くらいは、考えていた……ように思います。
それで〈よし〉という結論を、ついさっき出してしまった。

とはいえ、それは。ボーカロイド等の人工音声らをフィーチャーし、かつ、グリッチ的に切り刻まれた──けいれん的な、そしてトラックの部分がダークアンビエントやインダストリアルみたいな、《ヒップホップ》なのですが。

また。ニホンの読者の皆さんには、このバンド名プリウスミサイル》に込められた、複雑きわまるニュアンスが……。何かお分かりのことと、思います。
そしてこのことばには現在のニッポン国の、世代および階級間の対立、そしてテクノロジーと社会との摩擦か何か──、そういった問題らが、集約されているようでもあります。

プリウスのギアを音速から高速に
俺らは今 一台のプリウスに乗り込んでる
もちろんぎゅうぎゅう詰めだ
音は遅く光は早い
音を置き去りに光のように走れ

といったライムを人工音声が、奇妙きわまる流ちょうさで、よどみなく読み上げています()。カッコよい!
かつ、ここで私は思います。80歳を過ぎたようなお年寄りの爆走させるプリウスらに比べてさえ、自分の頭の回転は遅すぎるのでは、と。たったのマッハ1でしかない音の世界に、生きすぎてきたせいでしょうか。

過去をガソリンに未来へブーストしろ
誠実かなんてどうでもいい

いま私たちは、一台のプリウスに乗り込んでいます。もちろんぎゅうぎゅう詰めです。そしていったい、光のような速さで、どこへたどり着くのでしょうか。

とまあ、プリウスさんのライムに対抗して──というか、超お得意のオウム返しで──ポエムみたいなことをつづっているのも何です。つまらない気もしますがフラットに散文的に、起こっていることを記述しようとします。

私が初めて聞いたプリウスは、彼らの2nd EPである“Do You Happy?”の3曲め、“Akihabara Ginsberg Ⅰ”というトラックです。以前にご紹介したユニークなDJ《Lil 涙》さん()、彼による今年4月のMIXの冒頭で、それが鳴っていたのでした()。

カジノで勝った金で新車を新車に買い替える母
それでもしんぼう強く工場で働き続ける
肉のかたまりを機械に入れて
ゼラチンから飛び出る汁を浴びる
Prius Missile: Tissue Recital 2020 - Twitter
Prius Missile: Tissue Recital 2020 - Twitter
なぜかプリウス印のポケットティッシュを、
街頭で配布している動画です! クール!

……といったライムを、ボーカロイドはなめらかに朗唱し、またそれと別の何か人工音声は、ぎくしゃくと読み上げています。
機械的ではいずれもありながら、しかし彩りが異なります。

そのかけあいと重なりが複雑で異様な構造と流れを作り、まるで音楽であるような、または音楽になろうとしているような、さもなくば音楽であることを止めようとしているような──、それが定まりきらないステータスのまま、ただ、スピードがものすごい。

そういえば以前にご紹介しました《Arca》、アルカさん。その、私が名づけて《ミュータント・グリッチ・ポップ》のようなサウンドが、いま全世界できわめて評価が高いですけれども……()。
いっぽう。サウンド自体が強く似ているのではありませんが、こちらプリウスさんの《ミュータント・グリッチ・ヒップホップ》も、そのインパクトや新しみにおいて、アルカさんに劣っていないのではないか。そんなことを、考えたりしていました。

と、そういうショッキングなことがあってから、現在まで。約1ヶ月間ずっとプリウスさんを、心の隅っこ等で、追い続けています。
これは進行中のできごとのリポートなので、結論はありません。

〈光の速さで〉……資本主義が、どこかで進化し続けているような話を聞きますが、その中でそれに向い合っている私たちもまた、いやおうなく加速していくのでしょうか。たんにそれが不可避なのか、またはぜひそうすべきなのでしょうか。
そして、すでに発射されてしまったプリウスミサイルの軌道を、私は注意しながら見ています。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Prius Missile is a Hip-Hop band based in Tokyo. In December 2020, they released two EPs.
The sound of Prius Missile is extremely vivid and shocking, with rap by artificial voices such as Vocaloid and industrial-style tracks chopped like Glitch.

In particular, I was moved by the track “Akihabara Ginsberg I”, the third song of their 2nd EP “Do You Happy?”. The interaction of several types of artificial voice creates a complex and strange structure and flow. It's like music, or about to become music, or trying to stop being music. The speed is tremendous, without the vector being fixed.
Mutant Glitch Hip-Hop (I named) by Prius Missile, its impact and newness, it may be comparable to Arca's mutant glitch pop, which is now highly regarded around the world. I'm trying to keep an eye on the orbit of the fired Prius Missile!