エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Glaciology: 迷夢 (2018), 唯一無二 (2020) - テレパシー疑惑の深まり、そしてフレゴリ症候群を超えて

ヴェイパーウェイヴについて調べていると、ついつい自分は見つけちゃうんだよね。……〈あっれっ? このクリエイターは、かの偉大なる栄光のヴェイパースター《t e l e p a t h テレパシー能力者》)、その別名義なのでは?〉、と思える例のいろいろを。

そういう疑惑をなぜ抱くのかといえば、〈似てる〉って気がするから。
そしてテレパシーというご本家に、〈似てる〉風な特徴らのあれこれは──。

まずはもちろん、あの長々しぃ〜い《スラッシュウェイヴ》の音楽スタイル。
続いて、VHSビデオからのキャプチャみたいな、モヤッとしたカバーアート。しばしばその絵づらが、1980年代の水着美女や女性アイドル、とかそういう系。
そうしてさらに、楽曲タイトルや自己解説文らに出ているニホン語の、ひじょうに陰気かつおセンチな言い廻し。〈すべては過去に喪われました〉、そして〈私はあなたを愛しています〉、とかいったそれ。

……そのような特徴らによって、テレパシー疑惑をかけられているバンドたちが存在する。思いつくまま、その名前らを列挙してみると。

《S O A R E R》 /
《M y s t e r yミステリー》
《F i b o n a c c i》
《Illusionary 夢》
《Glaciology》
《World Switcher》
《レディーフィンガー》
《夢のチャンネル》
《目的地》

……と、とりあえず9組の名前が挙がったが。でもここで自分は、ちょっと目の前の暗さを感じちゃったんだよね。

だって疑惑をかけられた9組は、いずれもこの2〜3年間、活発に活動し続けているヴェイパー者たち。合計すれば、その作品らの量はあまりにも、ばく大かつ膨大。
いくらテレパシーさんが偉大なる豪の者であっても、それらの“すべて”をでっち上げているとは思えないんだよね。さらに、テレパシーであることを隠していない作品らも、また大量にあるワケだし。

〈すべての人が同じ人であるとしか思えない〉──、そういう一種の精神病っぽい症状があると聞いた。《フレゴリ症候群》と呼ばれるものらしい。オレってそれなの?

しかし多少は調べてみると、フレゴリ症候群の特徴は、〈似てはいないが“アイツ”であることにまちがいない〉、という決定的な大確信であるという(「新版 精神分析事典」2002, 弘文堂)。
だとすれば、多少くらいは似ているところに同一性を想定すること、そんなのは精神病のうちには入らないよね。ま、それはそうかっ!

で、さっきなんだが、スラッシュ系の新星みたいなヴェイパーバンド、《desert sand feels warm at night》についての記事で、自分は書いた。〈スラッシュってほとんど、テレパシーさん専用のジャンルみたいなモンなのでは?〉、みたいなことを()。
いや、どうしてそういう狭い発想になっちゃうのか、自己分析してみると。
スラッシュ系で多少でもイイものがあったなら、〈どぉせテレ氏の偽名作品じゃねェの?〉、と思い込む。そういうところがあったな……と、ただいま少し反省したりしているんだ。

というワケなんで、テレパシー疑惑の9組さんだが。たぶんまあ、その半分くらいは、別の人によるテレ氏へのリスペクトなのでは──、くらいに考えておこうかと。しかぁ〜し、疑惑はつきないがなっ!

でも正しい意見を言えば、別に作者の正体や実体なんかど〜でもよくて、要はオレらがヴェイパーウェイヴを愉しむこと。そこでいま、テレ疑惑アーティストらの中から、《Glaciology》をピックアップしてご紹介。
しかしご紹介ったって、言うことがあまりないんだよね。そのBandcampページの自己紹介には〈富山県在住〉とあるけれど、正直これを信じる気にはなれない。

それはともかく、述べたとおりにテレ疑惑の人である。だがしかし、いまその1stアルバム「夢の庭園」(2017)を聞き直すと、〈テレ度が不足か?〉とも思える。もっとはっきり言えば、その時期のテレ作品とすると、完成度のやや低さがありえない。
けれどもその次の「迷夢」(2018)、および最新アルバム「唯一無二」(2020)、ここらでひじょうによくなって、〈やっべーテレっぽい!〉という印象に。疑惑が深まるっ……!

で、グレイシャロジー(雪氷学)さんの傑作2タイトル、「迷夢」と「唯一無二」。いずれのアルバムも、ラストの曲が実にイイんだよね。全体的にもイイけどね!

まず「迷夢」のラストはタイトルナンバーで、典型的なスラッシュスタイル。その素材を調べたら、Кӓҭо Яэїкӧ「A Lie Tate No 時間」(1992)というアイドルソング
これがもともとすばらしい楽曲なんで、さいしょからネタがよすぎるのは〈ルールで禁止スよね?〉、という気もしたが。だがしかし、ヤッたもんの勝ちでしょうな!

そして「唯一無二」のラスト曲、「日が終わりました」。これの出もとなどは不明だけれど、ピアノ&ストリングスのカーム(calm)でトランキル(tranquil)な楽曲を、ヴェイパー式のモコッとした音質にナマらせたトラック。
で、まさにその一日の終わりのムードを表現し。そして終盤の数分間は、しのつく雨音に包まれながら、やがてアルバム全編が終わる。

このようにして、少しマジメに聞いてみたら、グレイシャロジーさんのサウンド、必ずしも強力にテレっぽくはないような気もしてきたが……。
けれど、何しろオレは疑い深いので、他のテレ疑惑バンドらも、追い追いそのうち調査しちゃうんだよね! ありとあらゆる場所におけるテレパシーさんの遍在、そんなことをついつい信じちゃうんだ!

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

【追記】いちおう冗談めかして書いたつもり、ではあるんだけど。しかしそれにしても、文中の《テレパシー疑惑》なんてことは、できればジョークとして受けとめて欲しいんだよね。いやもう、切にそうオナシャ〜ス!
てのは、その後も調査を続けてみると、述べた3ポイントのテレパシー要素ら(音楽様式・モヤッとしたニホン美女・陰気なニッポン語)をトレースしていくことは、スラッシュ系の《様式美》みたいなものらしいんだ。
オリジナリティのなさを誰も恥じようとはしないヴェイパーウェイヴの世界、さすがである──と、思わずオレは感じ入ったんだよね。イエイッ