エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

desert sand feels warm at night: バビロンの空中庭園 上・下 (2019) - チルってアウト! バ〜ビロン〜

イングランド在住をうたうヴェイパーウェイヴ・クリエイター、《デザート・サンド・フィールス・ウォーム・アット・ナイト》。2018年から活躍中、そして昨19年くらいから、あちこちで話題になっている名前()。
ちなみにこの名前を漢字で書くと、《沙漠里的沙子晚上很温暖》となるらしい。そういう別名義でのアルバムがある()。

と、述べたように現在のシーンの注目の人らしいので、このさいまとめてその作品らをチェキってみたんだ。
そうすると、すでにアルバムが21コも出ているし(共作を含む)、また長い曲が多いので、けっこうタイヘンだったが。

で、分かったことの一端。このデザートさんの作品系列は、自分がザッと見て、約3つのスタイルに分かれる。
まず分量がやたらに多いのは、《スラッシュウェイヴ》系。逆に少ないのは、《レイトナイト・ローファイ》。量的にその間に位置するのが、何というのか、《ニューエイジっぽいニュアンスのあるチルアウト》。

ここで《チルアウト》と呼んでいるのは、《アンビエント》に比べて崇高味に乏しいユルめのシンセ音楽。デジタルシンセのチャラチャラした音色で、こぎれい風なメロディをゆる〜っとタレ流す、現代的なイージーリスニング

……と、何かいきなりディスに走ってるみたいだが(?)。
しかしうちらはヴェイパーウェイヴなので、わざとバカみたいな安い音楽をこさえてみることも、シャレとして大いにありうるよね。
っていうかァ、〈バカみたいな安い音楽〉しかない、みたいなもんか! グハハハハ。

そして、いまご紹介する「バビロンの空中庭園 上・下」(2019)は、デザートさんのチルアウト路線の代表作のようで、かつ全90分にもなる力作。トラック数は、計18コ。
タイトルに言われたふしぎな庭園の眺めと空気感、それらを叙景している音楽だと考えられる。小鳥らのピーピーと鳴く声、そして園内のせせらぎの水音が、高く低く、音楽の背後に響き続けている。

そしてその音楽自体は、世に流通しているチルアウトとあまり変わりなく、そういうものとしてもふつうに娯しめそう。デキはかなりいい。ただしサウンド処理のモヤッと感の濃さに、ヴェイパーのイケない美学がコッソリ表現されているのだろうか。

さて。ここで自分がワンダーの感覚に襲われてしまうのは、こういう(いちおう)まっとうそうな音楽を、デザートさんは“ちゃんと創った”のだろうか、そういう疑問。

というのも。他部門におけるデザートさんの作品らは、スラッシュ系にしろレイトナイト系にしろ、あっぱれな《略奪音楽》であるようにしか聞こえない。もちろんそれはいい、ヴェイパーだから。
しかしそういうデザートさんが、このチルアウト部門についてのみ、きっちりと“創って”いるんだろうか? サンプリングされたものみたいには聞こえないんだよね、自分の聴覚では。

逆にこれらが、すべて既成のチルアウト作品らからのサンプリングで丸パクリでぇース、とでも言われたら、ものすごく感心しちゃうんだけどな〜。
だがしかし、そのあたりの真相は分からないまま──そもそも《真相》や《真実》などが問題にならない世界だし──、オレたちはこの壮麗にして迷宮的なる庭園を、こころよくさまよい続けるのだろうか、いつまでも。

ところで。デザートさんの作品系列で、分量のもーれつな多大さを誇るのが、スラッシュ系なんだけど。
でもスイマセン、なぜかオレ的に、あまりいいようには聞こえないんだよね。〈長いな!〉って感じだけで。

何せスラッシュウェイヴといえば、そのスタイルの創始者と目されるヴェイパーヒーロー、《t e l e p a t h テレパシー能力者》さま()。このお方がその第一人者であるどころか、ほとんど彼専用のジャンルみたいなものか、と思ってるんだよね。
似たようなことは誰にでもできるけど、しかし必ずひと味が足りてない。もしくは、不要な過剰さが目立つ。

そういうワケだからか。デザート式スラッシュの中では、《M y s t e r yミステリー》を名のるナゾの人──オレの憶測ではテレパシーさんの変名──とのコラボ作品「人生は幻想です」、これがまあアリかな、くらいの印象になったのだった。

……と、そんなことを、オレことモドキちゃんが申しておりますが。でもしかし、あまり真に受ける必要はねェですよ?

ってのもデザさんによるスラッシュ系、シーンでの評価はきわめて高いみたいだし。そうとすると、いつかオレにも、その真価が分かるのやも知れぬ。
なのでぜひ皆さまも、それぞれの耳で、そのよしあしを定めてしまいましょうや! 何せ音楽の価値ってものを決めるのは《われわれ》以外ではありえず、そしてその重責をみだらにエンジョイしていくこと、それがオレらの使命なのだから。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

【ご案内】上記の文中にもありますが、スラッシュだとかレイトナイトだとか、〈ことばの意味は分からないがすごい自信〉を感じられた場合には、ヴェイパー関連の用語集をご参照ください()。