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ツジトモ「GIANT KILLING」, 小林有吾「アオアシ」 - 《ピラミッド》を破壊したく候

ツジトモ「GIANT KILLING」 - コミックDAYS
ツジトモ「GIANT KILLING」 -
コミックDAYS

期間限定・約100話くらい無料
(2020年5月10日まで)

新型肺炎”蔓延のあおりで、サッカーの試合がず〜っと見れてないんだよね。今2020年2月末から、ずっと。Jのリーグ戦再開のメドも立たないし……。
なのでもう、こんなときは、サッカーのまんがでお愉しみしましょう!

で、まずは朗報。モーニング誌(およびコミックDAYS)掲載の大人気ロングラン作品、ツジトモGIANT KILLING──通称・ジャイキリなんだけど。
長らくやっておりましたアジアカップ準決勝のニホン対オーストラリア戦が、延長戦込み120分間の激闘のすえ、ついにゲームセット! こんなところでその結果は言わないけれど、ずいぶん長かった〜。
万事に悲観的な自分なので、年内に決着が見れるならいいほうか、くらいに考えてたんだよね。それよりはずいぶん早かった、とも考えられる。

調べたらこの試合、選手らがピッチに入ったのは、モーニング2019年25号(6月6日付)の掲載分。それが20年の21+22合併号(5月7日付)で、やっと試合終了。その間、リアルの時間経過は約11ヶ月!
そして前にも同じこと書いた気がするが()、2007年に連載スタートしたこのまんが、主人公《達海猛》のさいしょの監督シーズンが、まだ終わっていない。つまり作中では、いまだ1年間が経過していない。

そもそも、《いま》って何月なの? 「リーグ戦が後半に突入」とは言われてるんで、7月か8月くらい?
ちなみに近年の《AFCアジアカップ》は3大会連続で、1月に開催(2011, 2015, 2019)。夏に開催された例は、2007年がさいご。するとジャイキリは、この2007年大会を想定して話を進めてきたものか。

そしてこの物語とともに、ジャイキリ読者のわれわれも、2007年というシーズンにずっと閉じ込められている、そんな気がしてこないではない。えっとそれから13年、サッカーとそれをめぐる環境は、大きく変わっちゃってるのに……。
かつそれを前提に、それからの後発サッカーまんがらの様相も、ずいぶん変化している。自分が感じる大きな変化は、戦術の描写がきわめてちみつなものへ。
ゆえに現在、ジャイキリの戦術描写は相対的に大ざっぱ、という印象に。そしてその分、オレとかにも理解しやすくて助かるんだが。

小林有吾「アオアシ」 - 小学館eコミックストア
小林有吾「アオアシ」 -
小学館eコミックストア

期間限定、第3巻まで無料閲覧可能
(2020年5月11日まで)

そういう、現在の斬新な戦術をきっちり描く傾向のサッカーまんが。その中では、まず、小林有吾アオアシ(2015-, 週刊スピリッツ)が印象的だった。

四国の辺境から東京のプロクラブのユースへ入った主人公アシトくんは、サッカーを「キャプ翼」レベルでしか(?)理解していない。それが現在のちみつな戦術へのフィットを求められ、しかも前めから左サイドバックへとコンバートされ、苦しむ。
それからずぅ〜っと、適応に苦しんでいる。左SBはサカーでいっちゃんかっけーポジションだと、オレは思っているけれど──作者さんもそこを意図してるかも知れないんだが──、しかし。

で、しかもこの後発の「アオアシ」が描いたフレームですら、もはやサッカー界の現況に合ってはいない部分がある。
アシトくんを見出したユースの監督は、物語の序盤、「いい選手らを育成しまくって、うちを世界一のクラブにする、バルサマンUもぶっ倒す!」、と意気込みを語る。これには大いに共感するが、しかしそんなことはほぼ不可能、それが現在は見えている。

なぜってFCバルセロナ級の選手を育成したら、彼はバルサかそのレベルのクラブへと、すみやかに移籍してしまうから。これにブレーキをかける手だては事実上、存在しない。
かつ、そんな超一流クラブへ行くんなら、送り出す側も気分がいいけれど。しかしいまは、ヨーロッパでも中堅の下ぐらいのクラブらへさえ、ホイホイと若い選手たちは行きたがる。

……びみょう。何かそういう情勢の変化が、さいきんの「アオアシ」で語られていた気もするけれど。

バルサやマドリーや英プレミアあたりを頂点とする、プロサッカー界のピラミッド構造。その間を人は動くが、しかし《構造》はほとんど変わらないんだ。近ごろ20年間あまり、この構造に変化を少しでも与えたのは、人ではない、ほとんどカネのチカラだった。
つまり、もっとも効果的な強化はまずカネを集めること──というサッカー界のつまらない現実が、現在はまる見えなんだよね。人材ごときはカネについてくるんで(!)。

そして話を戻し、ジャイキリの第2の主人公である椿選手。この彼にしたって、フル代表でちょっと目立つ活躍をすればホイホイと、ヨーロッパでも中堅の下くらいのクラブからはお呼びがかかるはず。
まだ確かプロ生活2年めで、若いしね。いまの移籍市場、《青田買い》的な傾向がきわめて強いので。

したら、椿くんはどうするのか?

そのいっぽうでジャイキリのテーマは(言うまでもなく!)、ジャイアント・キリング》バルサやマドリーをぶっ倒すまでにはそうとう時間が要るにしても、しかし達海の率いるド底辺クラブ《ETU》が、遠からず何かデカいことをやってくれるはず。それを期待して13年間、この作を拝見し続けてるんだよね!