エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Formication: Pieces for a Condemned Piano (2005) - うち棄てられたピアノが奏でる形而上の夢

きょうはお天気がいい日曜日みたいなので、ダークアンビエントのお話でもいたしましょうか! いっえ〜い!
性格の暗さには定評のあるわたくしモドキちゃんなので、ダークなネタならいくらでも出そうなんだが──。何となく本日は、けっこう古いものをご紹介。

さてBandcampの発足(2007年)より以前、マイナー音楽普及のため《ネットレーベル》という運動が盛んな時代があった。その中のひとつが《Dark Winter》で、名前の通りじっとりひんやりとしたダークアンビエントが専門分野()。

そして、フォーミケイション(Formication)による「うち棄てられたピアノのための作品集」は、2005年、そのダークウインターの第19番としてリリースされたアルバム。かついま初めて知ったが、ほぼ同時にバンドのレーベルからCD-R盤もリリースされた。

そのタイトルに言われた「うち棄てられたピアノ」とは、別に比喩とか詩的表現とかではない。じっさいにある八月の夕べ、バンドのメンバーふたりは、流行ってないパブの駐車場で、ぶっ壊れたピアノを発見したのだそう。
それに興味を感じ、彼らはそこから10いくつかの音声サンプルを採取した。壊れすぎてキーが押せる状態にはなかったので、いろんな手段でそれの各部を鳴らして。

で、そのサンプルらを強力に編集してできた楽曲3コが、このアルバムの内容。

そのピアノはもはや存在しない。残されているものは、記憶と、数点の写真と、そしてこの音楽だけ。そこにおいてこのピアノは、きわめて美しく胸打つ響きをいまなお奏で続けている。

(アルバムに同梱のドキュメントより、写真もアーカイブに同梱)

というそれが、いま聞いてみてもかなりいい、美しく胸を打つ。1曲めがもっともアンビエント風のきれいなトラックで、2曲めは少々だけインダス気味。そして長大な3曲め、モヤモヤっとした音質が気持ちいいドローン風ミニマルトラック(約28分間)は、ヴェイパーウェイヴの《テレパシー能力者》の空想夢プラザ・シリーズの先駆のようにも受けとれる。いやアレよりは、もっとしっかり作ってるけれど!
こういう傑作アルバムなので、Discogsでの評価もきわめて高い。まあその投票者はわずか4人だとしても、ともかくこんな音楽を聞いてみようかっていう層には、大いにウケているわけだ。

──で、それが世に出てから、すでに15年ほどが経過。現在ダークウインターの活動はやや不活発のようだが、しかしサイトは維持されており、いまもこのアルバムを無償でダウンロードすることができる。これにはもう、尊敬と感謝の思いしかない。
このダークウィンターに限らず、一時は隆盛を誇った《ネットレーベル》たち。いまはその機能が、Bandcamp、SoundcloudYouTube、といったプラットフォームらに分散されて継承されちゃっている感じだが、これは進歩や発展──とかそういうことと、見ていいのだろうかどうか。

そのいっぽうのフォーミケイションは、2011年をさいごに惜しくも新作リリースがない気配。彼ら自身のウェブサイトも、現在は消えている。寂しい……。
……だが、ここでコッソリ言うと。実はこのバンド、軸足の半分がインダスにかかっているので、これ以外の作品には、けっこうキビシいのが多かった。
たとえばこのダークウィンターの第41番、“Agnosia”()とかがそうで、ちィ〜っとインダスへ行きすぎの感あり、オレの趣味的には。とはいえこれも、Discogsでは高評価なんだけど。

そもそもフォーミ何とかというバンド名の意味が、「何かの依存症にともなう幻覚、皮フの下を虫が這っている感じ」、っていうわけなので怖い。少し戻してやや健全化し、この壊れピアノみたいな路線で戻ってきてくれるなら、マジ大歓迎なのだっ。