エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

V.A: WEB / そ の 意 味 で (2018) - ハロー、ヴェイパー! グッバイ、チェリィ・デイズ!!…そしてデンパが途切れがちの日々へ

ヴェ・ヴェ! ヴェイ〜プ!!(親愛の呼びかけ) …さて「WEB / そ の 意 味 で」(2018)は、仏トゥールーズにベースがあるらしいVaporwave関係のレーベル《Elemental 95》発のオムニバス。アーティト15組が参加、全15曲入り。
本人らによるプレスリリースを一部紹介しておくと、コレクションのまとめ役は日本のヴェイピストである《Seaketa (海岸)》。そしてコンピレーションの総合テーマは、<ヴェイパーウェイヴなる音楽を初めて聞いたときのフィーリングの再現>。

そうとすると。…自分が以前、極端にお金がないせいで日々の娯楽にこと欠いていたころ、地元の公立図書館からポルノ的資料らを借り出せないかというバカを思いつき(!)、かろうじて探し出した中に、「私たちのロストヴァージン体験告白集」みたいな本があったんだけど。
それがいつの時代に発行されたものだったのか、「夜の新島の海岸で」…どうのとか、「清里あたりのペンションで」…こうのとか、出ている話題がやけに古い。それでついつい、《聖子ちゃん》から《ウインク》あたりまでの容姿をイメージした女性たちがイメージされた。いやー、そこまではまだしも…。

そして、この《ヴェイパー初体験の再現ビデオ》的なオムニバスには、そのヴィンテージクラスのエロ本と似たような性格があるっぽい、あるらしい、ていうかある、あるのだ!…と。あーそーゆーことね、完全に理解した

― バスは闇の中を走る…東海道ヴェイパー道中・お化け祭 ―

と、ここからこっちの話になるが――いや全編にわたりこっちの話ばかりのようでもあるが――、この「WEB / そ の 意 味 で」は、数日前、自分が旅行中に長距離バスの中で聞こうとしたアルバムなのだった。

…そのバスの行き先が清里や白馬ではなく、どういうリゾート地でもなく、日本の商都・大阪であるにすぎなかったのはうらみの残るところだが、(涙を呑んで)それはまあいい。そもそも独り旅だし。
いや、そのバスの中でWi-Fi接続が可能だという宣伝文句を聞いていたので、じゃあこの機会にモバイルでヴェイパーを探求しちゃおうかな、という発想に自分は出たのだった。何せ東京と大阪の間、片道あたり8時間も乗ってなきゃいけないんだから。そこで、借り物のAndroidタブレットを携行して。

そしてじっさいバスに乗ってみると、確かにネットが通じてしまう。そこで試しにYouTubeであの「Floral Shoppe / 花の専門店」(大基本!!)を再生してみて、これはイケそうと思った。とはいえタブレットのオーディオ性能があれなのか、音質がいまいちのようだったが、しかし“どうせヴェイパー”だから。
で、それから。知ってる曲ばかりを聞いてても何だから、大好きなモールソフト(Mallsoft, スーパーのBGMみたいなヴェイパー)の未知の逸品を発掘するゾーと意気込み、Bandcampのタグを頼りに探し当てたのが、今アルバムだった()。

つべと同様にBandcampの試聴システムもちゃんと機能したので、おもむろに再生をスタート。…すると、3曲めにかなりいいのがキたので誰のしわざかと思ったら、制作者はあの《猫 シ Corp.》ちゃま()。そりゃイイわけだ。
それにすぐ続いた曲「捨てアカウント: Virtual Resort Club」、これもひじょうにいい。何だかよく分からないイージーリスニングっぽい素材にヨゴシ処理をベットリと施した約90秒間の断片で、まさに失われた過去の悦楽体験のおぼろげすぎる追想といった風。

ちょっと飛ばして「Virtual Polygon: Second Chance」は、ご存じのショパン作曲「別れのエチュード」をグチャグチャにカットアップした、これも断片的な曲。その意味不明な行為の《意味》が分からないということはまったくなくて、《別れ》というモチーフあたりにれきぜんたる《意味》はある。
…あまりにもしつようかつ強迫的に反復され続ける、われわれの《別れ》。その《意味》は完全に理解したが、しかしこの制作物がそれをリプレゼントしているこの方法(手法)を、惜しくも自分はあまり好きじゃない。

さてそれに続いた「世界は80年代に終了しました: 単独で」、これがまた頭の悪そうな作り方で、何かその1980年代的なむかしの曲のイントロか何かを、バカみたいに反復してるだけ(?)風の約3分間。この断片を頼りに元を想像してみると、全般的にはメロウな楽曲でありながら、しかしスネアの音がバカにラウドかつゴージャスなのは、カーオーディオ等での再生時の音の通りを意識した、あの時代特有の作り方。

いやほんとバカみたいなんだけど、でもこういうのが好きなんだ、このオムニバスは全体にけっこう当たりかも…。そんなことを自分は、高速道路をひた走るバスの中で考えていた。
というその、単なる日本の長距離バスであるところを、思いきって《グレイハウンド》と言い換えてしまうと、たぶん村上春樹めいた感じにもなり、ちょっとふんいきがある。が、そこまでの思いきりは無理だけど。

で、それに続く曲は? …ん、なぜか、その再生が、始まらない、始まらない、始まらない…。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

そこで調べてみたところ、Bandcampが通じにくくなっているどころか、自分の端末からネットのすべてが見えなくなっているようだった。そしてその状態が、まったく回復しない…。
回復がされぬまま、やがてサービスエリアでの休憩になったので、運ちゃんにその件をただしてみた。すると、彼の答は。

「…ああそれは、関東の都市部を出て静岡の山中あたりを走行していると、デンパが通じにくくなっちゃうんです…。どこでも必ずネットが使用できるわけではなくて…。すいませんが、そういうものだと思ってください」

…と聞き、不満は残るがそんなものかと思うことにして、クレーマーではない自分はとりあえずなっとくした。そしていつもどおりiPodで耳を慰めることに切り換えつつ、回線の回復を待った。
だが、しかしだ! それからバスがさらに進み、京都や大阪らの都市っぽいエリアに進入しても、デンパが来てない(らしい)という状態は変わらなかった。

― 聞 こ え ま す か ヴ ェ イ パ ー の 遠 く か ら の 響 き ―

つまり。報告の煩雑さを避け、復路の状況をも併せてまとめれば。このバス会社が宣伝しているWi-Fi接続によるネット閲覧は、東京を起点とした西側では…わずか! 神奈川県の海老名サービスエリアあたりまでしか機能しない。

とはまあ! 何なのそれ、ひどすぎない? オレをクレーマーにしちゃうつもり!?

…いや実は、どうせ格安が最大の売りである路線、そのオマケのサービスだから、別にそんなには怒ってない。ただしビックリはした、自分の端末の故障か!?…という不安をも味あわされたわけだし。

そしてそういうわけなので、われわれの話題がふっとうしているコンピレーションアルバム「WEB / そ の 意 味 で」()。その後半部分を、自分はいまだに聞けていないのだ。ぶじに帰宅はできたので、これから聞くけど。
しかしこういう、聞こえたり聞こえなかったり…という心細さ、いい加減さ、おぼろげさ…。そういうのもヴェイパーっぽくはあるなと、ヘンになっとくしている部分が自分にはある。どうせこれらすべて、失われた過去の悦楽体験のおぼろげすぎる追想、でしかないのだから…。という、<そ の 意 味 で>