エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

現代建築420: S/T, Render (2018) - 残響のかなたに失われたショパンを求めて

ヴェイピストの皆さんチャオ! さてこのブログ、近ごろはVaporwaveにしたってずいぶんきびしい話題が続いたので――気持ち悪さが心に残るとか、いいのはバンド名だけだとか――そこらを反省し、今回はとても気持ちのいいMallsoftをご紹介。

チリのサンチャゴ在住と称している《MALO420》は、南米スペイン語圏のヴェイパークリエイターらの中ではちょっとした顔役っぽい人()。そしてそのメインの名義では、きわめて断片的なVaporhopやEccojams、またはClassic Vaporみたいのを発表している感じ。

…あ、いや、そんなカッコつけたヨコ文字だけをむげに並べててもしょうがないんで…。既成の楽曲の変形切り貼りがEccojams、ヒップホップめいたニュアンスがあればVaporhop、そしてむかしからあるヴェイパーウェイヴのやり口が目立っていればClassic Vapor、などと呼んだりしているのかな、と。

で、おそらくそのMALO420による別ユニットらしき《現代建築420》。これがMallsoft、すなわちスーパーのBGMを擬態したヴェイパーの、画期的ニューヒーローなのでは? と、自分は思い込んでいる。
この現代建築420という名義で今2018年に2枚のアルバムが出ていて、どちらも何だか気持ちがすごくいい。けれど、さいしょのセルフタイトル盤のほうに、その不可解しごくな方法論の集約があるやも知れない。

恐ろしく広大な建物の、どこか遠くの向こうから、かそけく聞こえてくるピアノのきれいな音。そしてその音の発生地と自分との間の、やたら遠い距離および広い空間を満たす、きわめてうっすらとした、しかし引きずるように長々しい、残響もしくは余韻。そしてそこについつい生じてしまった憧憬を、もしかすると憫笑(びんしょう)し煽り立てるような、さもなくば共感しつつ慰安してくれるような、つつましいビート成分。
そしてそのピアノの遠い響きの構成しているメロディが、S/Tアルバムの2曲め「デザイン」では、あの「雨音はショパンの調べ(I Like Chopin)」(1983, )であるようにも聞こえるのだが、しかしびみょうに違うようにも聞こえ、はっきりしない。このヘンにはっきりしないところが、「ふと聞こえたスーパーのBGMが心に残る」という奇妙きてれつな現象の再現としてあまりある。

かくて、《ショパン》うんぬんに代表される通俗で平俗で懐旧的なPOPの美が、引き延ばされて解体され変質し、距離感を維持しつつも衰亡の姿態をさらけ出している。そしてなおもそんなものに魅惑されてやまぬ心の弱さ、それが《慕情》と呼ばれるものなのだろうか。
だいたいヴェイパーというものは、過去にあった(かも知れない)美、過去にあった(かも知れない)快楽、そしてそれらへの執着粘着を示すポーズ、という性格があるようなので、つまりこれがそうだ。

…と、このようなスタイルがなぜなのか編み出されてしまい、かつその可能性が探求されていく過程を示して、S/T盤は密度がひじょうに高い。そしてそれに続いた「Render」は、そのスタイルの応用編か、という感じがある。
だがどちらもきわめて気持ちがいいので、こういうのはもっと欲しいな、と自分は思うのだった。いやまあ「ヴェイパーとしちゃきれいすぎる」という感想も、どこからか出てはきそうなのだけれど。