エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

センティ東京: ブラジルの思い出 (2017) - リオ&トーキョー・サンバ・コネクション(…が、切断されている!)

「耳に逆らう響き」などと言ったらどう考えても、ほめていることばではない。しかしそうとしか言うことができず、しかもその響きに自分はひかれるところがある、とはどういうこと?

で、これは、またも出ました変ちくりんなやつら、在フランスと称するVaporwave関係みたいなレーベル《L33K5P1N 84574RD5》からのリリース、「センティ東京: ブラジルの思い出」(2017)。このアルバムはサンバやボサノヴァみたいなブラジルちっくフレーバーのサンプルらをディスコ調にまとめたもので、たぶんジャンルはFuturefunk――いにしえのR&Bやポップソングらをヴェイパー式にあれした模造ディスコファンク――なのかなと。
だがしかし、ほんの一時の流行にしてもナウでオシャレっぽい風なアイテムとして歓ばれた(らしい)フューチャーファンク、ああいうのとは、かなりお品が異なっているはず。何が違うって、どこもかしこもがギクシャクして気持ち悪いのだ。

― イパネマの寝苦しいリゾート感覚カポエイラ

さっきこれをディスコ調と言ったが、まあディスコなんだけど、しかしこんな気持ち悪いディスコミュージックってありえる? なぜかビートがぜんぜん流れなくて、ほんとうにギクシャクしている。だいたい1小節あたり2回くらいずつ、ヘンに引っかかるポイントがある。耳に逆らう響き、と、さいしょに述べたのは、まずそのことだ。
今アルバム(全10曲)の2曲めが「イパネマの夢」というナンバーで、そのタイトルからお察しの通りのあれが題材。すると、誰もがご存じの楽曲であるだけに、まずそこを聞けば、ここでなされていることの気持ち悪さがよく分かるのでは。
しかもイヤなのは明らかにわざとであり、意図的にこんな気持ち悪い音が入念に作られている。単なるしろうとの下手くそな制作ごときでは、ここまでのひどいギクシャク感を実現することはできない。

自分も多少は打ち込みっぽいことをしないでもないけれど、しかし何をどうすればこうもギクシャクしたサウンドができるのか、まったく想像がつきにくい。そもそも、わざとギクシャクしたサウンドを作ろうとする人ってめったにいないし。
それでもむりに想像すると、サンプルらのつなぎ目がヘンであることに加え、ダイナミクスのところに何か細工があるのかとも思える。通常なら、ギクシャクしがちなところをコンプレッサーで押さえてスムースな感じにするが、これはその逆の処理をしているかも。いやはや、気持ちの悪いことをしやがって…。

― 悪夢のカーニバルはマテ茶エンドレスフラメンゴ

さてこのようにギクシャクしたチン妙なディスコもどきが、もしもヘンに渋い楽曲をベースに作られていたら、われわれはすみやかに「却下」の烙印を捺して再生を止め、それを忘れ去ることができるだろう。おそらく。
ところが今アルバムは、イパネマの何とかに代表される親しみやすい楽曲らと、そして全編のカーニバル的なふんいき、それらによって人を引き込みながら、しかも同時にヘンさをきわめたギクシャクしたサウンドを押しつけてくる。ここがアダとなるポイントだ。

つまり歓楽と享楽のフィーリングが、いいところまで高まりそうな予感と、しかしそこから引き戻されるギクシャク感、その同居。とは、何という気持ちの悪さ!
だがその気持ち悪さとギクシャク感に、何かふしぎな《リアル》の感触がある。快を求めてなぜなのか不快につきあたってしまうわれわれの生の奇妙さが、ここにちょっとうまく描写されている、とでもいうのか。

…いや…いやもう、この駄文を書くために数時間もこのアルバムを繰り返し聞いていたら、こっちもかなりヘンになってきて、通常のまともな音楽が偽善的なそらごとのように感じられてくる始末。これが《精神汚染》というやつなのか、被害は甚大だ!
そしてさいごに、「ブラジルの思い出」の姉妹品であるみたいな「センティ東京: ハンブルディスコライフ」(2017)を、ついでにご紹介。ブラジル風フレーバーはないけれど、これもおみごとに気持ち悪くギクシャクした変質的ディスコもどきなので、同時にオススメでアルのこと。Ole、オーレ!

ていうか、センティ東京のアルバムは以上の2点しかないようだが、しかし《L33K5P1N 84574RD5》からのフューチャーファンク路線のリリースは、実はほとんど同じ人が作ってんじゃないかという、これと同じようなギクシャク感が、そこかしこに聞こえていたり。…けれどもう、そんな余罪までは追及したくない。いちばんタチが悪いと思われたセンティ東京だけをここにさらしものとして、もうすみやかに終わりたいのだった。