エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

VHSテープリワインダー: Together United (2014) - 3ン倍速でGoォ! または、欲望のメディアの《欲望》を見てはいかない愚

《VHSテープリワインダー》は、Bandcampのページを見ると、北朝鮮平壌在住を標榜しているヴェイパークリエイター()。しかしそんなとっぴな主張を、自分は信じていない。
Bandcampのアカウントをお持ちの方はご存じのように、あの在住地の情報は単なる自己申告だし。なので、話半分ほどに受け止めたほうがよろしいかと。
いやっ信じるぜ、という方がいても、まあ別にいいのだが。しかしあれをうのみにして、「ついにVaporwaveの流行は北朝鮮にまでも波及!」みたいなことは言わないほうがたぶん吉…と、自分はご忠告いたしておく。

だがこのさい、国籍や在住地などはどうでもいいこととして。《VHSテープリワインダー》というバンド名みたいのを初めて見たのは、ちょうど約1年前。2017年末リリースのドリームカタログ渾身のオムニバスシリーズ全4作の第2弾「V.A.: Dream Catalogue CHAOS 2 - A Golden Halo Underground」(2017)の参加アーティストとして、だったはず()。
で、楽曲の内容はまったく憶えていないけれど、しかしその芸名がゆかいで、独りひそかに喉の奥で爆笑したことは憶えている。

アレを見たことある人も、いまでは少なくなっているかと思うが――今後に増える可能性はまず絶無――、大むかしビデオとレコードCDのレンタル店で働いていたとき、自分はそのマシーンを目撃した。いや、使用さえしたかも知れぬ(!)。まさにVHSのテープを巻き戻すという機能しか持たない逸品であり、「こんなのいったいどこに売ってるんだろう?」…と、そのとき、半分は呆れて半分は感心。

そのような、VHSの全盛時代にフッとわいて出てスッと消えたあぶくのようなツールなので、まさにヴェイパーの心をあらわしている物件ではありそう。正直、ねたましいくらいにいいネーミングだと、考えているバカもここにいる。

薔薇の香りとやすらぎを、ここで貴方に…

と、そんな出くわし方をしてから約1年後のこのごろ、何となくそのVHSリワインダーのアルバムの新しいところを聞いてみたのだが、しかし、さして面白くない、という現実がふに落ちない。何かてきとうなR&Bスムースジャズなどを、てきとうに低速で再生してみただけ、のような楽曲がやたら多くて。…面白いのは名前だけ? 名前倒れなの?

そこで、また何となく、サンブリーチ(略称: サンブリ)でこれ関連の記事を探してみると、彼(ら?)のかなり初期の作である「Together United」(2014)についてだが、けっこうきびしいレビューが出ていた()。アルバムとしてのオススメ度は《¯\_(ツ)_/¯》(ヤレヤレ)であり、これは全6段階の下から2番めだ。
で、その評言を要約して意訳すると、まあこんな感じになるだろうか。

まず、いいと思うのは、ブルージーなVaporhopっぽい曲ら。次にゲーム音楽風な曲らは、まあ個々人らのお好みしだいか。
だがしかし、R&Bみたいのをスローダウンさせただけの楽曲たちは、まったくもって凡庸きわまる、聞けたもんじゃない。再生時に飛ばすことをおすすめする。

というサンブリレビュー、自分はすごく同感できるのだが、にもかかわらずVHSテープリワインダーの最新アルバムである「Night Thoughts」(2018年11月)は、まさにその問題の<R&Bみたいのをスローダウンさせただけの楽曲>ばかりがぎっちりと詰め込まれたしろもの。というかそれらが、初期よりもくどく長々しく構成されているので、そのイヤっぽさもマシマシというありさま。

すなわちそこにおいて、VHSテープを巻き戻す「だけ」、という「だけ」の作業だけがそこでなされているだけかのようで。そうではなく、“なぜそれほどまでにVHSテープを早く巻き戻したいのか?”、という欲望の核心をかすったりエグったりしていく表現、それがない。だから、つまらない意味で「マシーン的」な生産物に終始している。

…というわけで、せっかくのサンブリさんの詳細レビューの熱筆が、ほとんど無に帰してしまっている。まあ批評というのは本来受け手たちの読みものであり、根本的には制作者たちへのアドバイスとかそういうのじゃない、にしても。

既成の曲らを遅くすればすなわちヴェイパー、だろうか? あのスローダウンされたマヌケな「ボヘェ〜」という声が聞こえていればヴェイパー、なのか? 違くないか?

とまでは考えたものの、しかしこのリワインダーさんの諸アルバムのサポーターらはそう少なくもなく…というか、わりに多いほう。それを見てしまうと…。これによっていくぶんか心を満たされている方々がおありだとすれば、これもこれでいいのか、と気弱な自分はつい。