ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

haircuts for men と、その作品群の公開停止から一部復活まで

2018年11月中旬、Vaporwaveの世界では多少知られたアーティストであるhaircuts for menのBandcampページから、すべてのアルバムが削除された。確か40タイトルほどもあったものが。
これはびっくり何ごとかと思ったら、同・下旬には、その約半分の19タイトルが復活した(今記事執筆時の現状同じ)。
…この間にどういうことがあったのか、分かっている限りをまとめておきたい。

起こったかもしれないことども

まずこのhaircuts for men、彼の作品らがヴェイパー界でどのていどに評価されているのか分からないが、しかしヴェイパーを知りぞめのころの自分にはひじょうにインパクトが大きくて、いまだフェイヴァリットというかヒーローであったりする。
そういうわけなので2週間にいっぺんくらいはBandcampページをチェックする習慣でいて、そしてつい先日、その作品らの全削除という状況を見て驚倒(大げさ)。それからRedditツイッター等を調べたら…現在までに、このようなことがおそらくあったようだ。

  1. 著作権関係の警告を受けたので、BandcampとSoundcloudから全楽曲を削除
  2. 新たにForbidden Cremmeという名義を作り、一部の新作はそちらで公開
  3. haircuts for menのアルバムのうち、問題がない(らしい)ものをBandcampで再公開

これでこの、ささやかな(?)騒動は収まったのだろうか? まとめてしまうとそんなに大ごとでもなかった風だが、しかし一時はまったくどうなるかと…。

そしてこれから

こういうめに遭った受難のアーティストhaircuts for menは、「今後はもうサンプリングを使わない方針で」のようにツイートしていたが、するとどうしても作風の変化は免れない感じ。じっさいすでにある変化が、Forbidden Cremmeの最新作「opulence」(2018/11/10)には感じられる。そもそも、Vaporwaveのようには聞こえない。ひたすらにゆううつで沈うつなエレクトロニカ、くらいな風に。

Forbidden Cremme - opulence(2018)

もとをただせばhaircuts for menのサウンドは、基本的にモヤモヤっとしたラウンジもどきで、「ありもののスムース・ジャズやR&Bか何かの断片らを再構成したものか?」などと推測された。ヴェイパー界内部のサブジャンル分類では、たぶんmallsoft(スーパーのBGMを擬態したVaporwave)というのが近いのかなと。
で、憂愁のムードと整合感のなさを常にたれ流しながら、しかし何かふしぎと浮き立つ感じ、享楽の前触れみたいなふんいきがあり、そのあたりがヴェイパーの真髄であるかもと、愉しみながら自分は独り合点していたが。

haircuts for men - ダウンタンブルと死にます ep(2016)

ただし…ややこしいことを申すけど、haircuts for menとしての傑作群からForbidden Cremme「opulence」への間に感じられた変化は、意外とアーティスト本人の自律的なものでもあり、サンプル不使用とかそれだけの理由ではない、ような気もする。
自分の感じだと、たぶん今2018年の初頭、楽曲のタイトルがチン妙な日本語ではなくなったころから、ヘアカットのサウンドは変わってきている。沈うつさが深まりPOP感には乏しくなる、という方向で。そして今度の変化は、そのベクトルが加速されたものでもあるかな、と。

《参考資料:往時のhaircuts for menのチン妙な日本語による曲名らの実例》
あなたの口を実行します/我々は、頭蓋骨に踊りました/多分これは助けにはなりません/我々の手には、フェード/あなたが汗をかく作ります/実行しないと、彼らが来る/警察署長は、ろう児に答えます/戦争忘れ/これは終わりですか?失血はイエスと言います/私はテープに毎日を聞く/それだけではない私でした
…等々々々。これらがまた、何かのムードを盛り上げていたのだった。はっきりした意味は分からないが、しかし喪失感と不安、そして不穏な感じ。

そしてさいごに、とにかく結論めいたことを書くと、このたびのささやかな騒動は、ふたつの問題をシーンに残したように思える。

  1. Vaporwave全般と著作権関係のあつれき、それが今後どうなっていくか。
  2. haircuts for men=Forbidden Cremmeというアーティストの作風が今後どうなっていくか。

…で、どちらの問題にしても、見守っていくことしかできない無力な自分、単なる一匹のオーディエンス、ということを痛感させられ。

それでもひとつ著作権について、これはこっそりと言うが、haircuts for menの削除されちゃった作品らと現在復活している作品ら、両者の間に顕著な質の違いがあると自分には思えない。
つまり現在公開されている彼の作品らが、著作権的に完ぺきクリーンであるような気がしない。すると、特定の権利者からの具体的なクレームには対応した、ということ? これでセーフなのだろうか?

その一方、Vaporwave界の雄の一人、またmallsoftの創始者である猫 シ Corp.は、著作権関係の攻撃を避けようとしてか、次のような文言を彼のBandcampにページに掲載。

all music uploaded here is free & all remixes/sampling found here is done for non-commercial entertainment and educational research only(…)
https://catsystemcorp.bandcamp.com/
(ここにうぷられた音楽らはすべて「フリー」であり、またすべてのリミックスやサンプリングらは、非商業的な娯楽と教育研究のため。もし著作権上の問題があればご連絡しだい除去するのでヨロシクにゃん)

そういうわけなので猫 シ Corp.によるデジタルアルバムは売り物でなく、すべてフリーD/Lとなっている。このやり方ならば、そうひどいめには遭わずと済む、のだろうか…? じっさいhaircuts for menの復活した作品らも、かつては有償D/Lだった気がするが現在は無償でOK、と変わっているもようだけど…。