エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

森脇真末味『緑茶夢』シリーズその他 - 〈売れセンに走れば、売れる〉?

【芸能考察】イントロとギターソロどころか、つまんねー楽曲らは全飛ばしが道理

ポップ音楽に関連し、〈イントロとギターソロを飛ばして聴くのは邪道〉──とかいったご意見があるようなお話が、たぶんツイッターか何かで聞こえてきたのですが。
ちょっと気になって調べなおしてみたら、その大もとの言説が、想像以上にぼんやりしたおじいさんの寝言です。現実とは何の関係もない飛躍をきわめた幼稚な思い込み抽象論でありすぎて、私は怒るよりも茫然〔ぼうぜん〕とさせられました。

最近、音楽関係者の間では「イントロとギターソロのある楽曲は売れない」といわれている。
イントロが長いと、スポティファイに代表される音楽配信サイトの利用者が「ダルい」と他の楽曲にスキップするのだとか。そして、楽曲の途中にギターソロが登場すると、今度は「テンションが下がる」ので他の楽曲にスキップ…。
この話を聞いて、怒る気持ちより、若い世代の音楽の聞き方がここまで変わってしまったのかと愕然(がくぜん)とさせられた()。

バカな。つまらない楽曲たちはつまらないからスキップされるのであって、〈イントロが……ギターソロが……世代が……!〉という問題ではないということに、いったいいつ気づくのでしょうか。

だいたいこの文章は、前半と後半がつながっていません。
追ってテクストの後半では、ヴィンテージ・ロックのレッド・ツェッペリンヴァン・ヘイレンたちが、すごく偉いようなことが書かれているのですが……。

しかし。そんな《ロックの殿堂》入りしているレベルのアーティストらによる、ゴールドやプラチナを達成した楽曲たちが、すみずみまでよくできているということ。それは論をまたない、あたりまえすぎのことです。
それとこれ──いまの安い三流ポップ音楽のみじめな現実とは、いっさい何も関係がありません。文句があったら、ツェッペリンやヘイレンらのレベルになったらいいのです。

そもそもリッチーやインギーでもないくせに、ダラダラと長ったらしいギターソロを人さまに聞かせよう──、などという考えが論外です。そんなことを考えもする前に、リッチーやインギーになっておくべきです。
かつ、そもそもポップ音楽というものは、楽曲そのものをしっかりとリスナーに伝えるべきものです。そこへゴテゴテと、質が高くもないイントロやソロパートらを因習で考えなしに付加していくこと──。それがまさしく、〈邪道〉のきわまりです。そんな悪習は、ぜひ滅びましょう。

……そういえば?

森脇真末味先生による少女まんが、確か『緑茶夢』〔グリーンティードリーム〕(1979)だったと思うのですが……。いや、同『おんなのこ物語』(1981)だったかも知れませんが……。

これらの連作は、1970年代末ごろのニッポンの、駆け出しでマイナーなロックバンドらとその周囲を描くシリーズです。
実はですが、ミュージシャンや音楽をストレートに主題としたまんがで、いいと思うものがきわめて少なくて。その中で、このシリーズが、たいへんに例外的なよさなのですが……(他の例外は、『ファイヤー!』、『オルフェウスの窓』、『のだめカンタービレ』の前半、等々々)。

そしてこのシリーズのどこかで、ちょい役のバンドマンの人が、こんなことを言っていた気がします。

(いまは売れていないバンドだが……)売れセンに走れば、売れるのはかんたんさ

……とはまた、何という空疎な思い込みでしょうか。

必死に売れようとしても売れなかったバンドのほうが無量大数的に多いという事実など、パーフェクト無視です。《現実》というものが、まったくこの人の目には入っていません。
売れていないのは楽曲や演奏らがいたらないせいなのであって、コンセプトやマーケティングらのせいではありえません。この現実を見なければ。

ですけれど、じっさいにそういったことを言う人が、そんな時代には少なくもなく、これが一種の《クリシェ》だったようです。その《現実》を、森脇先生は正しく描いていたと思います。
つまりは、〈青年期特有の根拠なき全能感〉というものがあると言われますが──。このシリーズに描かれた時代のニッポンのロック・シーンの大きな部分が、まさにそのホットすぎる青年期にあったのでしょう。

ですがそのいっぽう、作中の頭の冴えた人物たちは、もちろん分かっています。〈売れセンに走れば、売れる〉などというバカなことはなく、かんじんなことはそうじゃないと。

また、そのいっぽう。『おんなのこ物語』のわき役ギタリストの《桑田》さんは、何か意識の高い風な方法論か何かを言いたてすぎて、他のメンバーたちを引かせています。
もしかすると、彼がやるべきと考えていたのは、いま言われる《RIO/ロック・イン・オポジション》みたいな音楽だったのかも知れません。
それがまた実に売れなさそうですが、でもいいと思うんですよね、こういう熱さと青さは。私は共感しています。

ただし、その仮称《桑田プロジェクト》がどこまでのものになるのかは、言うまでもなくまず楽曲──、ついでに演奏しだいです。コンセプトがどうこう以前に……(ですけれど桑田さんは、やがて演奏活動をやめ、インディ音楽誌の編集長になってしまいます)。

そのまた、いっぽう。『おんなのこ物語』のヒーローであるドラマー《八角(やすみ)》くんは、売れようとかいった野心があまりなく、とにかくタイコを叩くのが大好きのよう。
ですがテクニカル方面の追求とかではなくて、〈音楽であれば何よりも楽曲が最重要〉という真理を、あらかじめ理解〔わか〕っています。
ゆえに自主的に自作曲のデモを作成して、りくつが先行しすぎる桑田さんを、びっくり&感嘆させたりします。なるほど。

そして……。そういった空気と熱気らを、森脇真末味先生がいきいきと描かれてから、すでに約40年もが経過。
その間に、よくも悪くも人々の頭が冷えて、ポップ音楽のシーンとマーケットを──その生態系を、誰もが多少はクールに認識することができるようになったのかな──、とばかり思っていましたが。

ところがそこへ、〈イントロが長いから売れない〉みたいな空疎な思い込みを、本気で述べる自称〈音楽関係者〉が実在するとしたら? もうほんとうにガッカリですので、インチキな自称ジャーナリストによるねつ造発言であることを、私は切に祈ります!

luxury elite: blue eyeshadow (2021) - 《女王》の絶妙なコントロールと支配

ヴェイパーウェイヴに関わる私たち全員を統べる《女王》、ラグジャリー・エリートさん()。
言うまでもなくこの方は、ごく早い時期からこのジャンルとシーンを支え、そして育んできてくれたヒーローたちのひとりです。

そして“blue eyeshadow”は、彼女の最新のフルアルバムです。2021年8月に、全世界待望の中でリリースされました。全17曲・約53分を収録と、ボリュームもたっぷり!

拝聴しますと、いつもの通りの歓楽の夜の世界──すなわち、《レイトナイト・ローファイ》です()。そもそもそれは、彼女(ら)が創始したサブジャンルです。
ちょっと特徴的かと思ったのは、全編を通し、シンセベースらの響きにアクセントが感じられます。近ごろの音楽ではあまり聞かれないような、〈ギコッ〉、〈グギャッ〉、という1980年代的なサウンドです。グッド!

……ですが? このアルバムがひじょうに聞く愉しみなのですけれど、しかし意外にサウンドが、ノーマル寄りかとも思ったんですよね! やや、異常性に欠けるかのような。

どうでもいいような薄っぺらなフュージョンイージーリスニングなどを、英語では〈ウェザー・ミュージック〉と呼ぶらしいです。──ということを、以前にもお伝えしましたが()。
そしてこのアルバム『ブルー・アイシャドウ』は、単にそういうものとしても、意外に通用してしまいそう……かも知れません。ちょっと音質はよくないが。

そこで、〈こうだったかなあ?〉……と思いながら、ラグさんの過去作らを聞き返していたら、やはりそうではない。異常でした

たとえば、かの歴史的名作、聖ペプシさんとスプリットのアルバム、“LATE NIGHT DELIGHT”(2013)。そこにはもっと、ひどくドロドロとヴェイパーでしかありえないサウンドのおぞましき狂態が、ありありとありました。

たとえば、その第2のトラック、“Mild Seven”。いや、いまはもう、そのタイトルの《マイルドセブン》という商品名からしてノスタルジーのきわまりで、泣けてしまいますけれど。
で、このトラックは、1980年代後半のニホンのポップ曲をサンプリングしているのですが……()。

そのもと曲を聞いてみると、ちょうど前の記事で指摘した、いきなりのビートボックスがドギャ・グギャッと騒々しい系のアレンジです()。いや、それがいいのですが。
そしてラグさんは、それを大はばにググッとスローダウンし、何らかのローファイ加工を施して、きわめて〈マイルド〉化。そして、おそらくイントロのところをループさせています。

それだけの操作からにじみ出る、狂的な欲望のあらわれ。そしてブツリと切られて次のトラックへと瞬時に結ばれる、その終わり方まで完ぺきです。

そしてそうした、少々らんぼうかとさえ思えるような、瞬時&瞬時の楽曲らのつなぎ方──曲間の無音パートがほとんど存在しない、あってもごく短い──そもそも曲の終わり方が、かなりとうとつ気味である──。
この構成は、初期のラグジャリーさんのアルバムらに、しばしば存在した特徴です。そしてその絶妙ならんぼうさが──斬れのある刻み方が──力の行使が──、私たちの被虐心をかきたてて、わが女王への忠誠心をいや増してきたのです。あれがもう最高でした!

かといって? ──別に同じことをずっとしていればいい、とは思いませんので。私たちに下賜される女王の慈愛を信じながら、歓びをもって、とわに服従しつづけます。

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The Queen of Vaporwave, luxury elite, you know. And “blue eyeshadow” is her latest full-length album, which was released in August 2021, amidst worldwide anticipation. A total of 17 songs, about 53 minutes, plenty of volume!

When I listen to it, it's the same old joyous night world ─ Latenight Lo-Fi. It's a sub-genre that she (they) created in the first place.
What I thought was a little characteristic was the accent on the sound of the synth bass throughout the songs. It's a 1980's sound with hard overtones that you don't often hear in music these days. Good!

But...? I really enjoy listening to this album, but I thought it sounded a bit too normal.
So I went back and listened to some of her older albums, and the insanity is still amazing.
The split album with Saint Pepsi, "Late Night Delight" (2013), which can only be called a classic. The second track, "Mild Seven", sampled a Japanese pop song from the late 1980's, and the sharpness of the processing gave me chills all over again.

One of the characteristics of these early luxury elite is that the end of the song is very dogmatic, and the song leads into the next one with almost no silence. I really liked the wildness of it.
However, what about it? ─ I don't think it's enough to do the same thing all the time. We will continue to obey forever with joy, believing in the Queen's mercy that is bestowed upon us.

補償金BUSINESS: ADVENTURES OF A DAY I SKIPPED SCHOOL (2021) - エコーする、その背後に

《エビルDANCERひかり》を名のるのは、日本人であるらしいシンスウェイヴ(Synthwave)系の音楽プロデューサーです。この2021年から、大いにアクティヴのようです()。

その人が9月の中旬、《補 償 金 B U S I N E S S》というエイリアスで発表したのが、ご紹介します“ADVENTURES OF A DAY I SKIPPED SCHOOL”です。
これはいつもと違い、スタイルがヴェイパーウェイヴのアルバムです。全8曲・約14分を収録します。

それを私は一聴、大いに気に入ってしまったんですよね!
こちらの集中がそれるひまもない、コンパクトでタイトな構成です。全般にすばらしいですが、とくにドラムとかのビートの音がいい。

で、あ、さて。古い話になるのですけれど──いや、ヴェイパーに関連して古い話らがついつい出てしまうのは、やむなしですが──。

1980年代の後半くらいには、ダンス系ポップの世界で、その時代のビートボックスのワイルド&パワフルな鳴りを、最大限に活かして!……というアレンジの方向性がありました。
それを誇張して形容しますと、〈ドグゥーン! ズグヮーン! ダ・ダ・ダ・ダッ!〉のような、ものすごいビートが超ラウドで。

私はそれらを後日に聞いたほうですけど、一時はかなり好んでいました。《Georgio》というソウル/ファンク歌手の楽曲は大部分がそういうサウンドで、中古店をめぐってその全シングルを買い集めたりしましたが……()。

……そして。補償金さんによる“ADVENTURES OF〜”のサウンドには、そんなむやみとパワフルだった時代の楽曲らを素材とし、その騒々しいビート等をマイルドに聞かせてくれている、そういうものを感じたのです。それが錯覚でも別に、いっこうにかまわなくありつつ。

たとえば、このアルバムの3曲め、“SUSHI GATE”──これの原曲がどれほどけたたましい響きだったのか、想像するとすごそうですが。
しかしいま聞こえるものは巧妙にローファイ加工された、温かみの豊かな慰安的サウンドであり。そしてそれが背後に秘めた力強さが、もはや幻影のエコーにすぎないのか、あるいはいまだに何かを担保し保証しているものなのか。

そのあたりの分からなさが……つまり《ヴェイパーウェイヴ》だということなのかな、と、私は思います。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
エビルDANCERひかり (Evil DANCER Hikari) is a Synthwave music producer who seems to be Japanese. It seems to be very active from 2021.

And in mid-September, he announced "ADVENTURES OF A DAY I SKIPPED SCHOOL" under the alias 補 償 金 B U S I N E S S (Compensation B U S I N E S S).
This is an album with a style of Vaporwave. Contains 8 songs, about 14 minutes.

I heard this and loved it a lot!
The composition is compact and tight, leaving no room for the listener's concentration to wander. Overall it's great, but especially the sound of Drums or Beat.

In the late 1980s, arrangements that utilized the wild sounds of beatboxes were very popular in dance-oriented pop music. This work seems to be a modification of such sounds into Vaporwave that is easy on the ears and pleasant to listen to.
Behind the lo-fi, soft sounds you hear are echoes of a time when people were overly powerful.

鮭とばSKTB: TVガイド (2021) - 都会の悪はオレにまかせろろろろろろろ

鮭とばSKTB》は、日本人であるらしいヴェイパーウェイヴ関係のアーティストです()。どちらかといえばこの人は、フューチャーファンクの作り手かと考えていましたが……。

しかし。Bandcampからの彼のファーストアルバム『TVガイド』は、意外にも、私たちの特に好むスタイルであるシグナルウェイヴとして、リリースされました()。今2021年の9月上旬に発表、全11曲・約12分30秒を収録しています。

この『TVガイド』はまた、〈シグナルウェイヴのアルバムを一日で制作する!〉という、自主的な企画の産物でもあるらしいのです。
そういえばHKEさんがインタビューで、〈サンドタイマーとしての代表的アルバム、“Vaporwave Is Dead”は、14時間ぶっ続けの作業で一気に制作した〉と語っていた気がします()。そういういきおいを活かした作業の方法も、確かに有効でありうるようです。

さて鮭とばさんによる、シグナル系としての『TVガイド』の特徴は、まずグリッチ手法の多用です。素材であるCMやテレビのサウンドらをぞんぶんに切り刻み、そのスピード感を増強しています。
またフューチャーファンクでおなじみの、ローパスフィルタの開閉などもちらほらと聞こえています。そして古式にのっとってゆかしくも、どこか29チャンネルという地方テレビ局の《放送終了のお知らせ》で、美しく終わります。

そこにいたるまで、何せたった12分半の〈アルバム〉ですから、愉しい時間はあっという間もいいところです。ジェットコースター的です!

トータルすれば、この『TVガイド』は、鮭とばさんがおそらくフューチャーファンクの制作で身につけた手法やアッパーなムード作りなどを、シグナル系に活かした作品でありそうです。
あまり細工していないシグナル作品が多い中で──それもそれでいいのですが──、これはユニークではないでしょうか。さらにまた冒険的な、鮭とばさんの制作に大きな期待が持てるでしょう!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
鮭とばSKTB (Saketoba = Dried Salmon, SKTB) is a vaporwave artist, apparently Japanese. And I've thought he's a creator of Future Funk before.
But surprisingly, his first album on Bandcamp, 『TVガイド』 (TV Guide), was released as Signalwave, a style we particularly like. Released in early September of 2021, it contains a total of 11 tracks and about 12 mins and 30 secs.

The first feature of 『TVガイド』 is the extensive use of Glitch techniques, where the material (commercials, TV sounds, etc.) are chopped up to enhance the sense of speed.
Also you can hear the effects of the low-pass filter, a familiar feature of Future Funk. Then, following the aesthetics of Signal, it ends beautifully with “The End of Broadcast” announcement of some local TV station.
It's a twelve-and-a-half-minute “album” after all, so it's no wonder that the joyful moments fly by!

In total, 『TVガイド』 seems to be a work in which Mr. Salmon has applied the techniques and upper moods he learned from producing Future Funk to Signalwave. Unique, and it's fun!

US Golf 95: 天気ジェネリック1〜4 (2021) - セックス と マネーと お天気情報

《US Golf 95》──この、すでに広範なリスペクトをかちとっているヴェイパーウェイヴのアーティストについては、いくらか以前にもお伝えしています()。

そして、いまご紹介しますゴルフさんの作品が、『天気ジェネリック四部作です。今2021年の9月中旬に4コ同発の、最新アルバムらです。
それが、ゴルフさんにはこれまでなかった感じの、《ClimateWave》──お天気系ヴェイパーウェイヴ──で、大きな愉しみを提供してくれました。4つを合計すると、39曲・約108分にもなる大作です!

で、さて。

ひとは誰しも、若いときには、〈空が晴れようと雨が降ろうと、オレはオレだぜェ!〉みたいな気持ちのいきおいが、多少はあるかと思います。
ところがうっかり年齢を重ねてしまいますと、〈お天気のことくらいしか、言うような話題がない〉ということに、やがて気づくでしょう。

ゆえにいま、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。イェイッ。

そういえば。
私なんかも若いころ、うっかり近所で《善良な隣人》らと目を合わせてしまい、そして〈いいお天気ですね!〉などと声をかけられて……。
そういうとき、どう答えるものなのかと、考えこんだりとまどったりもしていましたが。まあ、そういうタイプの人間を、いまは《アスペ》とか《アドード》ADHD)とか蔑称するものらしいですが……。

しかし現在は学問を積んだせいで──それはうそにしても──、こういうものは《パフォーマティヴな言表》なのであると、しっかり理解できています。
《パフォ(…)言表》とは、ようするに、とくに内容のないごあいさつのことです。〈言われること自体が“意味”をなす〉、というタイプのおしゃべりです。

であるので〈いいお天気ですね!〉とでも言われたら、〈そっスねー、アハハ!〉くらいに内容なきレスポンスを返しておけばいい、ということです。現今のお天気の状況について、熟考したりクリティカルに叙述したりする必要性──、それはないのです。
いや、それはあたりまえではあるのですが。しかし、それだけのことを《理解》するのに時間や経験らを要するタイプのヒト属も実在するのです。

ゆえにいま、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。イェイッ。

ああ、いや。
ひとがほんとうに関心のある話題といえば、いまもむかしも、セックス&マネーに決まっています(断言)。すなわち、フロイトさん&マルクスさんです。
ところが、しかし。《文明社会》でセックス&マネーのことを、むやみと言うのは、無作法とされています。これに並行する現象として、フロ&マル氏らの名前をみだりに口にすれば、たぶんあなたはいいめに遭いません。やばい!

ゆえにいま文明の名のもと、お天気こそが語られるべきです。すなわち、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。オー、イェイッ。

と、ここまでを見てから、ゴルフさんの最新の名作アルバム『天気ジェネリック』四部作に戻りますと……。

こういうタイプの安いイージーリスニングを、英語ではずばり《ウェザー・ミュージック》と呼ぶようですが。まったくもって、それらの延々と果てしなさです。
また。無意味に目だった点として『天気ジェネリック4』の4曲め、“𝕒𝕟𝕕 𝕟𝕠𝕨 𝕥𝕙𝕖 𝕎𝕖𝕒𝕥𝕙𝕖𝕣”という秀逸なタイトルをもつトラックが、聞いてみれば、あのハービー・ハンコック「カンタループ・アイランド」(1964)をむざんなキッチュにしている感じで、実によくないですが!

しかも。これら全般、わざわざ作ったものであるはずもなく、《サンプリング》ということばさえも恥じるべき、そのへんのてきとうな既成曲らのガッチリ略奪のたれ流しだとしか思えませんが……。

……しかし。心には強く激しくセックス&マネーを想い、いっぽう口ではお天気をホットに語る──。そのような善良めいた市民らである私たちに対し、最適化された音楽(もどき)であるとして、こういうものは盛んにアプリシエートされます。
そうではなくとも、目だたない処理ですが原曲らに対するローファイ化の程度が絶妙で、実に気持ちのいいサウンドになっている──と、技術論(!?)的にも、これはよく賞賛されるでしょう。

そして。いずれこうした音楽や何かしらの浄化作用によって、私たちはセックス&マネーなどのことを忘れ、かつフロイトマルクス氏らのいまわしい名前なども、忘却の彼方に置くでしょう。
そして《パフォ(…)言表》の盛んな交換によって、このすばらしい文明社会の緊密な連帯を、いっそう強くするでしょう。

そしてきょうも、そしてあすも、お天気のことを語りつづけるでしょう。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
US Golf 95, a legendary Vaporwave artist based in Glasgow, UK. His latest albums 『天気ジェネリック』 (Weather Generic) series are ClimateWave like never before. What's more, a huge series of four works was released at once!
And the content is a wonderful Weather Music with a distinctive shallowness and cheapness. A total of 4 works, 39 songs, about 108 minutes are recorded.

And it's an inconspicuous element, but the lo-fi processing for the original songs is exquisite, and the sound is really pleasant. And it's a good idea to listen to this, and forget about unclean topics such as sex and money, and just think about the weather. And just think about the weather. And just ...