エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

ウータン・da・ウータン: さいごに1996年のくちづけを。 (2021) - セカイ系の終わり と 美少女ワンダーランド

たったいま現在のフレッシュでホットな話題であるらしい、何か劇場版のアニメーション大作があります。

20世紀の末から実に長く続いているシリーズの、リメイク版の完結編であるようなお話です。

その、テーマ曲かイメージソングのようなものが、たぶんヴェイパーウェイヴかのようなトラックへと、エディットされています。

そしてまあ、これも例のあの、《スラッシュウェイヴ》なのではなかろうか、という気もします()。そのジャンルとしてはわりあいに短く、2分半くらいの楽曲に仕上がっていますが。

Edited to Slushwave of Shin-Evangelion anime movie theme song or something you can enjoy so much the best vaporous sound, yeah!

いやその。たまには私もトレンドに即し、時流に便乗して、大いなるバズりをキメたいと、まったく思わないではありませんでした。

ともあれ。このきわめて長く続いたアニメーション・シリーズの完結を私は、このトラックによって、セレブレイトしたいと思います。

あ、それと、もうひとつ。すでに2ヶ月ほど前らしいですが、SoundCloudにポストしていた別のトラックの宣伝を、ここにおいて。
こちらはおそらく、潜水艦のミッションで水っぽく薄まった愛を探索し、そして深海のタコのロックンロールを聞くようなそれでしょう。

Babes on a submarine mission for you!
For there's a mystery under the sea, under a water, come share it...!

これら2つのトラック、その題材らにつながりがなくはないので、そんなには強引な抱き合わせにはなっていないはず、という思いで心がいっぱいです。

V.A.: Solarpunk:A possible Future (2021) - 心からなる 誠実さをきわめた偽善

聖ペテルスブルクを根拠とするという《global pattern》は、ヴェイパーウェイヴの実績あるレーベルです()。
主に彼らは、スラッシュウェイヴのリリースにおいて、私に強い印象を残してきました()。例となるアーティストらの名を挙げるなら、たとえば《from tokyo to honolulu》、また《desert sand feels warm at night》など。

そして、“Solarpunk: A possible Future”は、そのグローバル・パターンによる、今2021年3月リリースのオムニバス・アルバムです。全17曲・約89分を収録している、と言えます。
そして。これは単なる寄せ集めではなく、その全体が、《ソーラーパンク》という新しいアチチュード──さもなくばフィロソフィー、美学──、それをプロパガンダしようとするもののようです。

ではその《ソーラーパンク》とは、どういう考えや感じ方なのでしょうか? 彼ら自身の説明によりますと──。

ソーラーパンクは(中略)、より良い世界にどうやってそこにたどり着くことができるかというビジョンです。 私たちの生き方を変え、違った考え方をし、私たち自身と自然より上のあらゆる種類の支配を廃止することは私たちの力です(後略)。

……いや。私なんかは、どうも少々奇妙な性分ですので……。
この宣言につき、〈あなた方は、HKE氏らの唱導する“ドリームパンク”に対抗する商標を手に入れようとしているのでは?〉、みたいな気も少し、いたします()。しかし、それはいいでしょう。

それはそうとして。このアルバムの全体の印象は、〈フェイク臭ふんぷんたるニューエイジ系チルアウト音楽である〉、ということです。その印象をもたらす全体の統一感は、実に大したものです。

そして言うまでもなく、〈フェイク臭ふんぷん〉ということは、批判ではありません。むしろヴェイパーウェイヴであるとすれば、フェイクでなくてはなりません。まじめにシリアスなニューエイジ音楽などをやられては、逆にめいわく千万です。

Second∞Sight: Pillars of Creation (202o) - Bandcamp
Second∞Sight: Pillars of Creation (2020) - Bandcamp
これがまたインチキくさいニューエイジ
チルアウト音楽で……思わずなごみます。

それと、もうひとつ印象的なことは。今アルバム中には、《盗用音楽》としてろこつなトラックがほとんどない、ということです()。
まあ、実のところはサンプリングなのかも知れませんが。しかし私たちに親しい、あのろこつで露悪的なサンプルのタレ流しみたいな挙動が、目だってはおりません。

──で、さて。こういう傾向が現在、ヴェイパーというムーヴメントの中で、どれほどにヴィヴィッドであり、どれほどにインパクトのあるものなのでしょうか?

どちらかといえばヴェイパーウェイヴは、ネガティヴ(もしくは批判的)でシニカルでアナーキーな音楽(もどき)として、現在まで時間を重ねてきました。
そうであるがゆえに、これが現在におけるパンクロックであると言えるでしょう。

それに対して、この《ソーラーパンク》はいかがでしょうか。聞くことの愉しみの多さとはまた別に、少し考えさせられるところがあります。

なお、今アルバムのさいごのトラックは、前記事でご紹介した《Second∞Sight》さんによる、13分を超える大曲です()。これが実はもっとも《盗用音楽》くさく、けっきょくはいつも通りなのか、のような気もしてしまいますが!

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
global pattern, which seems to be based in St. Petersburg, is a proven label of Vaporwave. Mostly they have left a strong impression on me with the releases of Slushwave.
And “Solarpunk: A possible Future” is an omnibus album released in March 2021 by global pattern. Contains 17 songs and about 89 minutes.
And. It's not just a jumble, it's all about trying to propaganda a new attitude called Solarpunk.

But that concept is another topic. The overall impression of this album is that it is a new age chill-out music with much of fake odor. The overall sense of unity that gives that impression is really great.

And, needless to say, "fake odor shit" is not a criticism. Rather, if it is Vaporwave, it must be fake.

And another impressive thing. It means that there is no sloppy track in the album as “Plunderphonics”.
Well, they may actually be samplings. However, the behavior that is familiar to us, such as the sloppy and vulgar samples, are not noticeable.

So will our Vaporwave possibly cease to be a shameless music thief and become a serious and positive music movement? No way?

Second∞Sight: 人生の瞬間 (2020) - きょくたんに薄められた望みなさ

《Second∞Sight》、セカンド∞サイトを名のっているヴェイパーウェイヴ・クリエイターは、米オハイオ州クリーブランドの人だそうですが……()。
そしておそらくこの方は、2年くらい前から活動しておられるようですが。

そしてご紹介するアルバム『人生の瞬間』は、2020年3月のリリース作。それがこの21年2月、やや注目されるべきレーベル《Underwater Computing _》から、再発の運びとなりました。
で、少し話題になったりもしたので、私もそれを一聴する機会を得たのです。

さてこのアルバム『人生の瞬間』は、全16曲・約85分を収録。一般ポップやR&Bの、もともとゆるめの楽曲たちを、さらにことさらスローダウン──そうして、私の申します《ヴェイパー処理》でまとめ上げたもののよう()。
ジャンル的には、《スラッシュウェイヴ》ということになるでしょう()。全体のムードと鳴り方の統一感が、実にみごとです。

そして、どういう統一されたムードが作られているかというと?
それがただもうひたすらな、けだるさ、ものうさ、そしてやるせなさ──。これなのです(!!)。

……ここに収録されたトラックたちは、その再生速度を約30%ほど上げてやると、〈もともとはこういう楽曲だったのだろうか?〉とも思える聞こえ方になります。
で、その推測される原曲たちの響きは、そんなにまではウツな感じでもないのですが……。

それがまあ。《ヴェイパー処理》というメソッドの怖ろしさなのでしょうか? それとも、セカンド∞サイトさんの手ぎわがトゥーマッチすばらしいのでしょうか? けだるさ一色のムードにそれらがベットリと染め上げられて、ここに『人生の瞬間』というアルバムになっています。

……ああ! 正直なところ、やるせなさにもほどがあるというもので。ちょっといやだな──と、さすがの私も思います。
《アンニュイ・ムード》などということばが、好ましいような意味にも使われますけれど──きょくたんに薄められた《快楽, plasir》の持続として──。ですがしかし、これはもう、そういうかわいいレベルのお話ではありません。

けれども。

そのような、ものうさしかない倦怠アヴェニューの散策かのようなこのアルバムを、ついうっかりにしたって3回も4回も、なぜなのか聞き通しています。何かそれだけの《質》がここにあるということを、私は行動によって肯定しています。

そして。今アルバムのものうさのピークは14曲めの「ロブ」というトラックで、ここでいつもハッとさせられてしまいます。
あるいはこれの原曲を、他で聞いたことがあるような気もします。ですが、それをちゃんと調べてみようという気にはなれない……ああ、という感じにしかなりません。

ところで。こういうセカンド∞サイトさんの、これ以外の作品はどうなのでしょうか。実はその話題に、あまり私はふれたくないのです。

──とは? このご本人のBandcampページを拝見いたしますと、おそらく何か80コくらいのアルバムが、すでにリリースされているようなのですが(!!)。
いや。いくら私たちのヴェイパーウェイヴが、安易で安直でイージーな音楽(もどき)だとしても、〈活動歴2年くらいで80作ほどのアルバムを生産〉などというウルトラなお話を、聞いたり信じたりすることを私が拒否しています。

そういうわけで、あまり多くはチェックしておりませんが。

ともあれ少し聞いてみた中でひとつ、その現在の最新作に近いアルバム“Aether”は、うってかわってドローン系のアンビエント作品(らしきもの)です。タイトル通りにエーテル的なふんいきの、全10曲・200分以上もの再生時間を誇る大作です。
これはちょっと、どうやって作っているのか、見当がつきません。チートくささが、そんなには感じられません。どうあれ、聞き通すことが困難でないというくらいの《質》は、そこにあるものと思えます。

いやはや。このセカンド∞サイトさんはひょっとすると、私レベルのレビュアーに対しては、すごく大物すぎる、あまりにもスケールの大きなアーティストでおられすぎる、そうなのかも知れません。
が、分かりませんけど〈何かある〉という感じは、大いにいたしますので。その真価は、ぜひ皆さまご自身らが聞いてみた上で……!

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
The Vaporwave creator named Second∞Sight is said to be from Cleveland, Ohio, USA. Perhaps this person has been active for about two years.

And the album 『人生の瞬間』 (Moments of Life) was released in March 2020. And in February 2021, it was reissued from the remarkable label Underwater Computing _.
So, it was a little talked about, so I had the opportunity to listen to it.

This album 『人生の瞬間』 contains all 16 songs, about 85 minutes. It seems to be a slowdown of the originally loose songs of general pop and R & B.
In terms of genre, it would be Slushwave. The unity of mood and sound is really amazing.

And the mood of this album, which is totally unified, is too dull, fatigue, lethargy, ennui, exhaustion, stagnation, all of them. The Vapor effect over-enhancees that feeling of the original songs. Oh no...!
However, for some reason, there is a lot of attraction. Tired of it, I listen to it again and again. A quite strange masterpiece!

Lil 涙: ばりすいナイト2020 (DJ MIX, 2020) - 麻婆豆腐 と グリーンカレー

《奥床式/架空インターネットラジオ「ばり好いと〜よ!」》という長い名の、在福岡のグループが存在しているようです()。

かれこれ一年近く前のことですが、このグループによるヴェイパーウェイヴのオムニバス・アルバム『V A 悪 い 波』(2020)を、このブログでもご紹介いたしました()。かなり好感のもてる作品だと、お伝えした気がいたします。

そしていまご紹介したいのは、この《奥床/ばり好い》グループの一員または関係者であるらしい、DJ《Lil 涙》さんによるMIX動画です。約30分間です。
これはヴェイパーではなくてジャンル的には、ブレイクコア、レイヴっぽいテクノ、ヘヴィメタル、そして世界各地の雑多なポップ曲ら──、ついでにアニメやゲームからの音声──、それらの詰め合わせである、と申せましょう。かつ導入の語りなど、テレビCM等から引用されたサウンドらが《シグナルウェイヴ》風でもあります。

全曲の終盤に現れる中華テイストのエレクトロポップが、実に面白い楽曲です。調べたりしたところ、これはタイのグループ《China Dolls》による1999年発表の、“Tee Mai Gure”という曲であろうと思われました。
そのもと曲の動画を眺めると()、ニッポンで言えばPUFFYかフランク・チキンズのような感じの女性デュオによる唄でした。たとえが古いですが!
ともあれ、タイの方々によるチャイニーズ風ポップというのが実にあれです。……たぶん、トーキョーで供されているタイ料理に近いレベルでチン妙であることでしょう。

そしてその曲と入れ替わりに、おそらく倍速テンポのブレイクコアが、ピタリとリズムをマッチさせながら激烈にフェードインしてきます。このシーンはまさしく白眉です!

そのすばらしいシーンを筆頭に、〈とんでもなく雑多な音楽(または音源)らのアソートでありながら、しかし意外に構成がきわめてちみつである〉ということが、このMIXについては言えそうに思えます。いま現在においては。

ただし。これを初めて聞いたときの印象は、ひとまず〈雑多ッ! 乱雑ッ!!〉であったのです。

そしてその、どうしようもなくゴミっぽい雑念らが、脳裡に渦まいてやまない感じ……。
そこに私は、なぜなのか、きわめて強く共感してしまったのでした。

奥床式: Downer game music sampling compilation [BLUE] (2020) - Bandcamp
奥床式: Downer game music sampling compilation [BLUE] (2020) - Bandcamp
《鬱ゲー/泣きゲー》関連サンプルの
使用曲らのオムニバスだと風聞しました

この感動のベースにある想いを、あえてむりにでも、ことばにいたしますと。

近ごろ私も、目や耳に入ってくるもろもろの情報のあまりの多さ──その整理や理解が、とうてい追いつかない。そのことに、やや疲れているようです。
そしてそういう状況への音楽的処方としては、アンビエントやラウンジで心を休めようとするのもよさそうです。というか、ふだんはそうしています。

けれども。

ご紹介してきたLil 涙さんによるMIXは、そんな雑多で乱雑な雑念らにとらわれた私の状況を、鏡のようにそのまま映し出し、そして《表現》みたいなものにまで、ご昇華をなされているかのようです。
そのアプローチに新鮮さを、私は感じたのかも知れないのでした。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
A brilliant mix by DJ Lil 涙 (Lil' Tears) with a focus on Breakcore and Gabberhouse. And there are many things to think about, but our minds are captivated by Anime, Eroge (erotic PC games), et al. We are asking for help, and this mix is our innner cry...!

ビーノ『宇宙とかと比べたらちっぽけな問題ですが』 - “僕らの音楽”、そのゆくえは?

2017年よりコミックNewtypeに掲載中のまんが、『宇宙とかと比べたらちっぽけな問題ですが』
これは東京郊外の日野市に住む三姉妹と、その周囲の人々の、ささやかな《気づき》たちを描く、ショート形式のコメディシリーズです。

その作者であるビーノ先生は、別のシリーズ『女子高生の無駄づかい』によって、より多くの名声を得ているかも知れません()。同一の媒体に、そちらのお作も大好評掲載中です。

で、さて。ここから少し、私からのお話になるのですが。

タイトルを略して『宇宙問題』と呼ばれるこのシリーズ作の、おおよそ33〜35番めくらいのエピソードは、僕らの音楽と名づけられています。
ヒロインである三姉妹の長女の隣人である大学生のゆーじくんが、ベーシストとして、アニメソング(以下・アニソン)をコピーするバンドに参加しようとします。ですが、自分以外のメンバーたちが全員くせものぞろいでとまどってしまう──、といったお話です。

これは何しろわずか4ページのコンパクトな物語であり、描かれていることはきわめて明快です。
けれどもさいきんこれを読み返してみて、私はひとつのことに引っかかりました。

すなわち。お話の結末近く、いよいよバンドのリハーサルが始まったとき、私たちのゆーじくんは、ひとつのささいな、しかし小さくもない難事に気がつきます。それは、このバンドのリーダー格であるドラマー氏の演奏について……。

走りすぎっ
BPM190の曲が 200以上になってるよ

そして、このドラマー氏のニックネームが《イニシャルD》である原因は、そういう〈走り屋〉であるからかと内心で思う……という、おギャグです。これはみごとに成り立っています。秋名峠のファイターなのでしょうか?

──ですけれど、それはそうと。

このエピソードをさいしょ見たときに私が気づかなかったのは、〈BPM190の曲が 200以上〉という、その具体的な数値のアブノーマリティ! それなのです。

アニメソングというお話だったのに彼たちは、なぜかハードコアパンクの演奏でも始めてしまったのでしょうか? そのジャンルで私が深く愛する、あの《G.B.H.》による荘厳さをきわめた至高の楽曲、“Sick Boy”(1982)。──あれが、だいたい190ほどのテンポであるようですが()。

いや、そもそも。本来190のBPMが、200にまで〈走って〉しまったところで、人はそのことに気がつけるものでしょうか?
これがもし、100BPMであるべきテンポが110にまで上がったとしたら、そのことによる違和感は、実に多大なものでしょうけれど!

とはいえ、じっさいに演奏している人々には、分かることなのかも知れません。というか、その200BPMという壮絶なテンポに、ともかくもついていっているこのプレイヤーたちは、意外とけっこうな達人(マエストロ)たちなのでしょうか。

ひっくるめて、私個人の認識で言いますと。190BPM以上ものテンポなんてものは、〈何とかコア〉とでも呼ばれるような、一般的なオーディエンスの鑑賞にはたええないエクストリームな音楽ジャンルにおいてしか、ありえないものです。もしくは、“でした”
ゆえに、この。〈本来のテンポが190BPMである〉というところから、すでに一種のギャグなのだろうか──などとも、一時は考えかけましたが……。

ですけれど、しかし。この〈本来のテンポが190BPMである〉という記述が、別にギャグでもタイポ(誤植)でもないらしいことに、現在の私はコンシャスです。

というのは……。

このエピソード「僕らの音楽」の第2のページには、こんなことが小さく書き込まれています。作中のボーカル担当のお嬢さんの自己紹介文として、〈(私は)Risaっ子です〉、と。
という記述が、先日までの私には、まったく意味がワカランチ会長でした。しかし、近ごろ少々《勉強いたしている》ので、大方の見当はついてしまいます。

つまりサブジェクトがアニソンなのですから、その道のビッグなシンガーであられる《LiSA》氏に関係のある記述でございましょう、と。
何しろ名高い方でおわしますので、そのLiSA氏についての説明はご割愛です。そしてそちらの熱心なファンの方々が、《LiSAっ子》を名のっているもよう。そのあたりをもじっていますね!

で、さて。私の感じていたところでは、そのLiSA氏による楽曲には、速い曲と超速い曲、その2種類しかありません。いや、それはもちろん少しの誇張ですが!
では、その超速い楽曲たちは、どれほど速いのでしょう? ざっと調べたところ、たとえば「マコトシヤカ」と題されたその楽曲は、190BPMに少し満たないテンポであるようです。

おや、まあっ!? ああ、いや、そういうわけのようなのです。

そして。そのようなブルシットに速い楽曲たちは、アニメやゲームやアイドルやボーカロイドのようなニッポンの特殊カルチャー──はっきり申しますれば、“おたく”的領域──においてこそ、受容可能性があるようなものなのだろうか、とも一時は、考えかけました。

たとえば。ご存じの方も多いでしょうが、こちらも名高いfripSideというニッポンのバンドが存在し、主にその特殊なるリージョンでご活躍されているようです。
わりにトランスっぽいバンドかと見ていますが、そしてその楽曲らがまた、全般的いちようにブルシっ速い、など。

けれども。調べを続けておりますと、それほどには〈特殊=“おたく”用〉でもないようなJポップやJロックらにおいてさえ、テンポが180〜200BPMにも及ぶような楽曲たちは、すごく多いとも言えないがまれでもない、ということが分かってきます。
そもそもLiSA氏の楽曲らあたりは、もはやコアなアニメファンだけが聞いているものではないでしょう。ニホン国の一般的ポピュラー音楽ファンの多くをひきつけてこその、ああした大ヒットたちである、と考えられます。

ですが私としては、そのことが〈特殊である〉、と感じているのです。そうしたウルトラに速さをきわめたテンポ設定は、特殊ニッポン的なポップのスタイル、特徴、徴候なのではないだろうかと。

──と、そんなことを言いうるために私は、この約2年間くらいのワールドワイドの、《バイラルヒット(viral hits)》と呼ばれるようなポピュラーソングらを、ざっとですが100曲くらい聞いてみました。〈TikTokで百万回再生!〉みたいな楽曲たちを()。
そうすると、あたりまえですが(!!)、テンポが180BPMにもおよぶような楽曲などは、その中にいっこも存在しません。まれにボーカルトランスやユーロビート系、あとメロコアやトラップみたいな曲らがやや速いですが、しかしそれらにしたって150は超えません。

また。そのハイパーな速さにあわせ、Jポップのような音楽の特殊性として、超盛りだくさんの壮大で長大さをきわめた楽曲らが目だつ、とも言えるでしょう。
つまりニッポンで使われる楽曲構成の用語で申しますと、イントロ・Aメロ・Bメロ・前サビ・ブリッジ・本サビ……その各セクションらの反復また反復……それらのあいまに自己マン臭ふんぷんたるギターソロ等のご間奏・そしてやっとアウトロ……。といった、きわまったるマニフィックな長大さの存在が指摘されます。

これに対し、いまの世界的マーケットのヒット曲たちは、そのほとんどがヴァースとコーラスだけで構成されているようなものです。ゆえに長くもなく、レングスが3分間に満たない楽曲がそれらの半分ほどを占める、と申せます。

そもそも単なるポップソングたちに、16どころか24小節にさえもおよぶ雄大なるイントロが必要なのか、ということをニホン製のそれらについて、考えさせられます。私はアニソンらの《TVバージョン》と呼ばれるエディット──90秒間くらいにうまくまとめたもの──を愛していますが、その原因は述べるまでもないでしょう!

なお。そうしたJポップ特有のエクストリームな長大さについては、〈1980年代の先端的ポップの特徴のなごり〉として、ひとつの説明がつかないでもありません。

たとえば、80年代初頭の《ニューロマンティック》ムーブメントをリードしたバンドであった、デュラン・デュラン。その代表曲であるすばらしい「ザ・リフレックス」(1983)は、さきに述べたものにやや近い、盛りだくさんで壮大な構成によっています。
とはいえ、4分間と少しでまとまっていますから、〈すごく長大〉ではありません。何しろ、そこにバカみたいなソロパートなどの存在しないことがグレートです。

そして構成のいかんを問わず、その時代には《ダンサブル》を主張するポップ曲が好まれたので、そこからフロアで有用な〈ロングバージョン・12インチMIX〉あたりへの志向が全般によしとされていた、と思われます。
かつ、そうした傾きがあればこそ逆に、もとの曲を短くした〈レイディオ・エディット〉というものが現れてきたのです。

ただし? いつからとは明言できませんが、そんな長大さが愛された時代は、ポップの先進地域らにおいて、とうに終わっています。とりあえず、徴候的なところだけ見ておくと……。
たとえば80年代の大ディーヴァでおわしますマドンナさんから、追って現れたマライア・キャリーさんやブリトニー・スピアーズさん、そしていま現在のドゥア・リパさんあたりへと、その楽曲らがだんだんとコンパクトになっていく傾向。それは、はっきりとご確認なされうることでしょう。

で、述べましたJポップらの、80年代のなごり的な大きすぎる構成と、そしてエピックなまでの超ハイテンポへの志向。
あと、ついでに申し添えますと。〈ボカロ曲〉らの傾向が薄く広まったような、メカニカルでインヒューマンなメロディライン。それと、申すまでもない、ローエンドの鳴りへの関心の低さ。そして、しゃくし定規なリズムのこわばり。
……等々とは、いささか失敬な申しようかも知れません。がしかし〈R&Bこそ“すべて”の基本〉であるような音楽ファンには、そうも感じられる、といったお話です。

と、何かJポップのそういう部分らを、ついついガラパゴス的〉とでも、呼んでみたい気はいたします。そういうポップは、いまの世界でニッポンの文化圏にしか存在していないもの──、かのようにも思えます。
そして。そういう特殊なポップであるものを、洋楽かぶれの自分としては、〈きわめてローカル、もう実にドメスティックですねェ〉などと、言い棄てて終わってもよい──のでしょうか?

  いや

別に、ニッポン人だから思うだけでもない感じですが。何かそういう特殊さに、ある種の前向きなところがないでもないとか。または、そういう傾向のアレンジがどうしたっておかしいとしても、しかし地の楽曲にいいものがあるとか。
……と、何かそれらにいいところを見つけようと思ってやまない、まるでポリアンナのような私なのでした。

たとえば、一見では短所かと思えるところが実は長所であるような、『ジョジョの奇妙な冒険』的な気づきを得たい、と希望しています。その手ごたえが、皆無ではありません。
ここにて思えば、現在は全世界で評価の高い《シティポップ》にしましても、そのプロダクションの全盛時には、〈ニッポン独特の奇妙でドメスなポップ〉の一部くらいにも見られていたでしょう。そのあたりからの大逆転も、ありえないことではありません。

むしろ世界標準のポップの制作に、まっこうから挑んだりしても、逆に惨敗が予見されます。その偉業にKポップの一部の上層は、なぜか成功しておりますけれど……なぜか。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

ということで。『宇宙問題』というまんがのお話から始まったものが、ふしぎと奇妙な音楽のお話へと展開してしまいました。
そして、私たちのゆーじくんらのゆかいなアニソンバンドが、今後どうなっていくのかも、実に深く興味の持たれるポイントですが。

ともあれ、ここまでのご高覧、まことにありがとうございました。多大なる感謝にたえません!